表題番号:2001A-097
日付:2003/11/28
研究課題イオウ中心ラジカルを活性種とする補酵素モデルの開発とラジカル触媒作用
研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
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(代表者) | 理工学部 | 教授 | 多田 愈 |
- 研究成果概要
- 遺伝子DNA合成に必須のribonucleotideからdeoxyribonucleotideの合成にはriboseの2位水酸基が還元される必要がある。この還元を
つかさどるのがribonucleotide reductase(RDR)であるが、この反応の第一段階はRDRのcystein残基のチイルラジカルがriboseの3位の
水素を引き抜くところから始まることが分かっている。この過程はC-HとS-Hの結合エネルーギーから考えると不利は反応である。つまり、
この水素引き抜き反応がスムースに起こるためには、チイルラジカルの活性化かC-H結合の弱体化が必要である。
本研究はチイルラジカルの活性化にはどんな要素が重要かについて実験的に検証することである。ここではチイルラジカルの反応性に
影響する要素として(1)イオウに結合した有機基の電子的性質、(2)2組の孤立電子対の水素結合などによる効果、(3)水素引き抜
きの遷移状態で電気陰性基がアピカル位に配位し、イオウが超原子価状態を取ることによる活性化を検討した。
Riboseモデルとしてbenzyl-t-butyldimethylsilyl ether (BzOTDMS),benzyl-methyl ether (BzOMe),および2-phenyl-5,
5-dimethyl-dioxolan (PhDOX)といずれもフェニル基とエーテル酸素で活性化された基質を水素源として用いた。結果は有機基として
πー電気陰性度の大きなpentafluorophenyl基>phenyl基>alkyl基の順に水素引き抜き能が大きかった。次にイオウの孤立電子対に水素
結合できるtrifluoroethanol,1,1-di(trifluoromethyl)ethanol,hexafluoroacetone-hydrateを反応系中に添加するとこの順に水素
引き抜きは阻害された。次に分子内に配位性を有するヘテロ原子を配したチイルラジカルによる水素引抜を検討した。phenylethylthioラ
ジカルのphenyl部位を2-pyridinyl,2-quinolinyl,2-quinoxarinylに置き換え芳香族窒素の配位効果を見たが、影響は見られなかった。
2-(1,1-di-trifluoromethyl-1-hydroxyethyl)benzenthiylラジカルがメチルラジカルの引抜き反応に大きな加速効果を示すことから
判断してイオウの超原子価状態による遷移状態の安定化には芳香族窒素よりも電気陰性度の大きな酸素原子が必要なことがわかる。
以上、酵素反応で重要な働きをするイオウラジカルの活性化に必要な要素を明らかにすることができた。