表題番号:2001A-091 日付:2002/04/27
研究課題「量子状態拡散」概念に基づく開いた系のローカリゼーション
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 教授 大場 一郎
研究成果概要
量子状態拡散概念に基づくDuffing振動子系の量子化と古典-量子のcrossover

 従来から開いた系の量子化にはCaldeira-LeggettのFeynmann経路積分に
よる方法,Lindblad型マスター方程式による方法が知られているが,いず
れも量子事象の統計集団に対する密度行列など分布関数の時間発展を記述
している.ここでは量子状態拡散(Quantum State Diffusion, QSD),すな
わち,ヒルベルト空間における'random path'の時間発展を記述するIto方
程式である確率的シュレーディンガー方程式に基礎を置く.これはいわば,
Lindblad型マスター方程式をunravelしたものであり,この方程式で物理系
をシミュレートすることにより,実験に際しての個々の事例の時間発展を
疑似体験できる.散逸あるいは測定過程によって,実際のミクロ系は最終
的に位相空間内でローカライズし,ミクロからマクロへ移行しているが,
この機構を分析することによって,散乱現象を含む開いた系での量子現象
の時間発展を解明する.
 本研究ではdouble minimumをもつ4次のポテンシャル中を振動している質
点に,周期的に変動する1次の外力ポテンシャルを加えた,Duffing振動子
の時間発展を解析した.古典領域において,この系はカオス的に振舞うこ
とが知られており,QSDによって,その量子領域における振る舞いを調べる
ことは,量子カオス研究のみならず,散逸系の量子化という観点からも興味
深い.
 この枠組では粒子的描象が取りやすいことから,プランク定数と系の特徴
的な作用との比をパラメータとして,Lyapunov数類似を求めると,比が小さ
い領域(古典的)では,その数がはっきりと存在しカオス的に振舞うのに対し,
1程度の領域(量子的)では全く存在せず,波動関数が全領域に広がっている
こと,また比の値には,ある臨界値が存在し,比を変化させていくと,古典
的から量子的に振舞う,crossover現象の存在することが示せた.このことは
量子カオスのみならず,散逸系の量子化の分野に新しい知見を与えている.