表題番号:2001A-070 日付:2005/04/02
研究課題現代ペルーにおける都市空間の変容と先住民文学・思想の再編
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育学部 専任講師 後藤 雄介
研究成果概要
 本助成による具体的な研究成果は現時点(2002年5月)ではまだないが、期限内の公表をめざし、研究誌・紀要等への投稿を準備中である。
 当初、本助成によって海外調査研究を予定していたが、個人的事由により残念ながら実現することができなかった(そのため、助成の一部は使用せずに返納することとした)。ゆえに、研究計画は少なからず変更せざるをえなかったことをお断りしておきたい。
 ペルー現地での実地調査に代わって、もっぱら国内で可能な研究課題に関連する資料収集とその読解にあたったが、そのなかで浮かび上がってきたことのひとつは、都市空間の変容と人種・民族意識の変容との密接な関連である。都市化の進行により、たとえば首都リマには多人種・他民族「混血」状況が形成されるが、人種・民族差別は解消されるというよりもむしろ、巧妙に隠蔽された形で持続しているといえる。そうした事態を、先住民文学・思想はどのように受容し乗り越えようとしているのか。作家ホセ・マリーア・アルゲーダスの遺作『上の狐と下の狐』(1971年)の分析を中心に明らかにしたい。
 もうひとつは、多人種・他民族「混血」状況をめぐる、より広範な文脈での思想史的考察の重要性である。具体的には、ラテンアメリカと米国における「混血」観の比較である。一般に「混血」の受容のあり方は両者のあいだで著しく異なっているとされているが、史実もさることながら、言説レベルでより限密な対照分析が必要であると思われる。その結果として、「混血」に対する寛容/拒否のイデオロギーの背後で不可視化されているものが見えてくるのではないか。たとえば、ラテンアメリカでは「混血」の文化が事後的に称揚されているに過ぎず、「混血」状況が必ずしも肯定されているわけではない。米国では「るつぼ」という金属融解の比喩を強調することで、現実の人種融合を隠蔽しているともいえる。
 以上のようなテーマを軸に、研究成果はまとめられる予定である。もし時間が許せば複数の論考としたい。