表題番号:2001A-004 日付:2002/05/09
研究課題正義の規範理論と実証理論の構築ならびにその統合化に向けての理論的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学部 教授 須賀 晃一
研究成果概要
 前年度のプロジェクトの拡張を目指した今回のプロジェクトでは,厚生主義的倫理や道徳原理だけでなく,非厚生主義・非帰結主義の立場に立つ倫理や道徳原理をも包摂しうるフレームワークを考え,それらの倫理・道徳原理を,いくつかの公理を同時に満たす道徳判断ルールを特定化するという作業によって特徴づけた.前年度のプロジェクトと同じように,中核となる公理には衡平性に関する2つの種類の公理である.1つは人間を衡平に扱う匿名性の公理であり,もう1つは行為を公平に扱う中立性の公理である.どのような道徳原理を考えるにしろ,民主的道徳原理である限り匿名性を満たされなければならないと考えることには一定の承認が得られるであろう.一方,中立性に関しては,情報的基礎をどう採るかに依存して,厚生主義的帰結主義,非厚生主義的帰結主義,非帰結主義のそれぞれに基づく道徳原理を構成できる.前年度のプロジェクトでコンジェクチャーが与えられていたが,定式化は不完全であったこれらの点を,今回のプロジェクトで明らかにすることができた.今回の研究では,次のような作業行った.
1. 極端な帰結主義者の道徳原理を特徴づける.
2. 極端な非帰結主義者の道徳原理を特徴づける.
3.地球環境問題解決のための倫理を模索する.
 帰結主義,非帰結主義の公理化は,厚生経済学や社会的選択理論の情報的基礎を厚生主義から解き放つための理論的拡張の中で試みられてきた.第1,第2の作業は,社会を構成する人々が従うべき倫理・道徳原理としてそれらを定式化しなおし,その社会的結果を検討する試みである.帰結主義に関しては,前年度の研究で得られていた結果が拡張されたフレームワークの下でも成立することが確認できた.一方,非帰結主義に関しては,匿名性と機会整合的中立性,無関連機会からの独立性によって特徴づけられることが示される.また,ここで開発したフレームワークを地球環境問題に適用して,環境倫理の役割について考察した.
 もともと3年の予定で始めた研究であり,今年度は正義の規範理論の部分のみで,実証理論と統合化に向けての研究は途についたばかりである.後日報告の機会を持ちたい.