表題番号:2000A-927 日付:2002/02/25
研究課題三次元音空間の記述に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 国際情報通信研究センター 助手 及川 靖広
研究成果概要
 近年、 実際とは異なった場所にいながらあたかも本当の場で体験するようなことを体験できるバーチャルリアリティ(人工現実感)に関心が高まってきており、さまざまな研究が行なわれている。バーチャルリアリティにおいては音より映像が主体であるかのように思われがちであるが、 実際の場の雰囲気を正確に得るためには音は重要な役割をはたす。音場の再現を目指した国内の研究としては古くはNHKの牧田康雄、早大の伊藤 毅らによる立体音響再生に関する研究、東京電機大学の三浦種敏らによるOSSやNTTの金田 豊、三好正人らによるMINTを使ったトランスオーラル系に関する研究、米国ではNASAをはじめ多くの研究機関で、ヨーロッパでは Ruhr 大学の Blauert らにより両耳受聴、再生システムに関する研究が行なわれている。
 本研究は、理論的に確立していたが膨大なハードウェア規模と制御系の制約から実音場への適用が全く試みられていなかったキルヒホッフの積分公式に基づく音場制御を実現しようというものである。また、そのために必要となるであろう空間の記述(符号化)について研究を行なう。キルヒホッフの積分公式の近似による波面合成法を用いることによる実現可能なスピーカ数での三次元音場再生方法の確立、あるいは新しい音場再生手法の確立を目指す。キルヒホッフの積分公式の近似がどの程度可能であるのか、キルヒホッフの積分公式を用いるにあたっての新しい空間の記述(符号化)に関して考察し、その理論を実空間に適用したシステムを構築し、 聴感的評価を行ないシステムの最適化を図る。
 三次元音場再生システムにおけるキルヒホッフの積分公式の近似、キルヒホッフの積分公式を用いるにあたっての空間の記述(符号化)、2スピーカを用いた立体音響再生理論およびそれを多スピーカへ拡張した場合について理論的考察を加えた。それに基づき、パーソナルコンピュータを用いた計算機シミュレーションによりさまざまな条件での音圧分布、波面を計算し、スピーカ数の違い,方法の違いが再生音場へ及ぼす影響を調べた。また,原音場と再現音場の比較を行い考察を加えた。その結果を踏まえ実空間に適用した再生システムを構築し、音源位置を変えた音場再現の実験を行った。さらに,近接4点法による音源定位位置を求める実験、聴感実験を行い聴感的評価を行った。
 その結果、従来の手法では聴感的に音源の定位はある程度得られるものの,物理測定では所望の位置への音源の定位は困難であったが,この手法により音源の数が制御系より少ない場合には近接4点法による測定によって正確な位置に定位することが確認された。
 本研究では、音場制御領域を特定の点から空間に拡張し、2~3スピーカによる立体音響再生法を拡張した方法を提案し,実現可能な数の制御系で比較的広い範囲にわたり音場の再生を実現した。近接4点法を用いた実験により音源位置の定位を確認することができた。また、聴覚実験により聴感的に必要かつ十分な制御システムであることが確認できた。