表題番号:2000A-923 日付:2002/02/25
研究課題情報通信サービス供給における定額料金制と従量料金制の経済効率性に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 国際情報通信研究センター 教授 三友 仁志
研究成果概要
 情報通信サービスの提供において、導入の要請が高まりつつある定額料金制を経済効率性の観点から評価した。定額料金制は、経済学的な観点からは必ずしも効率的とはいえないが、利用者から好まれていることは事実である。本論文ではまず、利用者が定額料金制を好む一般的な理由を、4つのバイアス(偏向)すなわち、
(1)低廉化バイアス;(2)リスク回避バイアス;(3)料金徴収抵抗バイアス;(4)自由財バイアス、として考察した。
これら以外に、より本源的に定額料金制が好まれる理由が潜んでいる。それは、余剰(便益)の分配的側面である。そこで、これらのバイアスを含まない情報通信市場モデルに基づき、定額料金制の導入が当該通信市場にどのような影響を与えるかを考察した。独占的供給者が提供する対話型の通信サービスにおいて、利潤最大化および総余剰最大化における最適二部料金をもとに、定額料金制を導入したときの料金水準、および総通信量、企業利潤、消費者余剰、総余剰への影響を数値例によって示した。得られた知見を要約すると以下の通りとなる。
・ 定額制の導入は消費者の厚生を大幅に改善し、通信量も増加する。
・ 反面、企業の収支は悪化するため、フィージビリティは低い。
・ 総余剰には大きな変化はないが、その構成は大きく異なり、最適二部料金の場合に比べ、圧倒的に消費者余剰は増大する。
・ 料金の最適性を維持して定額制を導入する場合には、加入者数の減少は免れえない。
・ 可変費用と固定費用からなる費用構造のもとでは、利潤最大化を達成する安定な加入者集合が存在しない場合がある。すなわち企業が利潤最大化行動をとっている場合には、定額制導入の負の影響は企業にとって顕著である。
・ 規制等によって総余剰最大化規準に従っている場合には、経済学的な効率性の低下はそれほど大きくない。すなわち総余剰最大化のもとでは、定額制を導入しても大きな影響はない。
・ 定額料金制に対するバイアスがなくても、利用者の定額料金制志向は不変である。