表題番号:2000A-915 日付:2003/10/29
研究課題資本コストの精緻化と企業価値評価モデルの有用性
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) メディアネットワークセンター 助手 大鹿 智基
研究成果概要
 本研究では、企業価値評価モデルを利用して実証研究を行う際に、資本コストの取り扱いを変更した場合に、モデルの説明力にどのような差異が発生するかについての分析を行った。
 資本コストは、従来より利用されている企業価値評価モデルである、配当割引モデルやキャッシュフロー割引モデルについて考察を加える場合においても、その企業価値計算上重要な要素であった。ただし、その取り扱いは、将来の企業価値を現在価値へと割り引く際に用いられる割引率としてのみであり、資本コストについて特に焦点が当てられた研究がなされてきたわけではない。ところが、近年、Ohlsonモデルを代表とする残余利益モデルや、Stern & Stewart社が提唱したEVAモデル(R)など、資本コストを明示的に取り込んだモデルが相次いで発表されたことに伴い、その重要性が再認識されつつある。
 資本コストをそれほど重要視しない場合、計算上の簡便性から、また単純に割引率として捉えるのであれば、評価対象企業すべてに対して同一な資本コストを用いれば十分であり、その際には客観的な測定が容易である無リスク資産利子率を用いればよかった。しかし、株式投資を行う場合に、投資の対象とする企業ごとにリスクの度合が異なることは当然であり、その場合それに対応した資本コストを用いるべきである。特に、モデルによって算出される企業価値に大きな影響を与えるとすればなおさらである。
 そこで、本研究では、キャッシュフロー割引モデルとOhlsonモデルの両者を対象に、資本コストとして全企業共通の値を利用した場合と、資本資産評価モデル(CAPM:Capital Asset Pricing Model)の理論に基づき、市場モデルによって算定されたいわゆるベータ(β)値を利用した場合とにおいて、モデルの株価説明力にどのような変化が現れるかを分析した。なお、米国の市場データを用いた同様の研究は既に行われていることから、今回わが国のデータを用いて行った分析結果と比較することで、日米株式市場の市場特性も明らかにした。