表題番号:2000A-900 日付:2002/02/25
研究課題『和泉式部日記』の贈答歌における〈山の端の月〉の表現性に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 高等学院 教諭 松島 毅
研究成果概要
 『和泉式部日記』には、〈月〉を詠み込んだ歌が数多くある。その中に、〈山の端の月〉を詠み込んだ歌は、2首含まれているが、なぜかどちらも詠者は敦道親王=「宮」であり、和泉式部=「女」は、〈山の端の月〉を歌うことがない。和泉式部には、「暗きより暗き道にぞ入りぬべきはるかに照らせ山の端の月」の歌があり、和泉式部の代表歌といえるほど広く知られており、その点で〈山の端の月〉は和泉式部にとって特別な意味を持つ歌語であった可能性がある。にもかかわらず、和泉式部=「女」は、「宮」によって詠みかけられた〈山の端の月〉の歌について応えていない。それはなぜなのか、という疑問が本研究の出発点であった。研究の過程で、〈山の端の月〉がむしろ和泉式部以後の時代において歌語として定着したこと、また、和泉式部の上記の歌を出発点として仏教的色彩を濃厚に帯びていくこと、またそれは、〈山越阿弥陀図〉のような仏教美術の方面からも裏付けられるものであることがわかってきた。一方で、『和泉式部日記』においても、仏教は「女」と「宮」の関係性に大きく関わるものであることが知られており、その点で作品中における〈山の端の月〉も、そうした仏教的色彩をもつ歌語と推測されるのであるが、文脈上の整合性という点でいまだ問題を残しており、志半ばにして研究期間を終えざるを得なかった、というのが現状である。さらに考察を深め、近いうちに発表し得る成果を得たいと考えている。