表題番号:2000A-877 日付:2002/04/16
研究課題有機高分子絶縁材料中の電荷分布の実時間測定
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 助手 平井 直志
研究成果概要
 本研究は、架橋ポリエチレンケーブル中の空間電荷形成機構を空間電荷分布の実時間測定により解明し、架橋ポリエチレンケーブルが直流長距離送電に利用できる可能性を示すことを目的としている。有機高分子絶縁体の試料としてポリエチレンを使用し、架橋剤分解残渣である、アセトフェノン、αメチルスチレン、クミルアルコールそれぞれを浸漬させた試料を用いて、これらの残渣がポリエチレン中における空間電荷形成に及ぼす影響を測定した。
 アセトフェノン、αメチルスチレンの場合は、浸漬試料が陽極に接触している場合は、浸漬、未浸漬試料の界面において浸漬試料から未浸漬試料中へ正電荷の移動が確認された。一方、浸漬試料が陰極に接触している場合は、浸漬、未浸漬試料の界面において浸漬試料から未浸漬試料中へ電荷の移動はなく、界面に負電荷が蓄積されるのみであった。1層の浸漬試料においては空間電荷は測定できなかった。これに対して、片面のみにアセトフェノン、αメチルスチレンを塗布した1層の試料では、塗布面が陽極側のときのみ正電荷の移動が確認された。これらの電荷は伝導電流測定より、導電率の増加によるものであることが分かった。これより、アセトフェノン、αメチルスチレンは、電荷移動を促進する作用があると判断できる。
 クミルアルコールの場合には、前者の場合とは対称的に、浸漬試料が陽極に接触している場合は、電極、浸漬試料の界面に正電荷が蓄積し、浸漬、未浸漬試料の界面に負電荷が蓄積した。また、浸漬試料から未浸漬試料中へ負電荷の移動は確認されなかった。浸漬試料が陰極に接触している場合は、電極、浸漬試料の界面に負電荷が蓄積し、浸漬、未浸漬試料の界面において正電荷が蓄積した。また、浸漬試料から未浸漬試料中へ電荷の移動はなかった。伝導電流測定より浸漬試料の導電率の増加は確認されたが、界面に蓄積された電荷の極性の違いの原因は明確でない。また、1層の浸漬試料においては、電極と試料の界面に、接触している電極と同極性の電荷が蓄積されていることが測定できた。これは、クミルアルコールが存在すると電荷はその付近でトラップされることを示すものである。
 つまり、アセトフェノン、αメチルスチレンは、ポリエチレン中において電荷移動を促進する作用を持つのに対し、クミルアルコールは、電荷をトラップして空間電荷を蓄積させる作用があることを見いだした。このことより、架橋ポリエチレン中よりその架橋剤分解残渣であるクミルアルコールのみを除去できれば、架橋ポリエチレンには空間電荷は形成されないことになり、架橋ポリエチレンケーブルが直流長距離送電に利用できる可能性を示した。