表題番号:2000A-866 日付:2006/11/10
研究課題温度応答性高分子ミセルを用いたドラッグデリバリーシステムの開発
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 助手 小堀 深
研究成果概要
 薬物は生体に投与された後、その物理化学的および生物学的性質により体の中を移動し、標的部位に到達した薬物分子が組織や細胞と相互作用することによって、治療効果が生み出される。しかし、投与された薬物のほとんどが標的部位以外へ移行し、副作用の原因となることがある。薬物を治療したい部位のみに選択的に集積させることができれば、単に薬物による副作用を軽減するのみならず、今まで外科的な治療法しかなかった疾患に対して新たに薬物療法を適用できるなど、従来にない革新的な薬物療法が期待できる。本研究では、薬物のみでは実現不可能な生体内での動きを制御する機能を、薬物キャリアーに付加する方法に注目した。生体内での動きを精密にコントロールできる薬物キャリアーは、薬物を標的部位に選択的に送り込み、結果として最高の治療効果を得ることができる。本研究では、この薬物キャリアーを化学の立場から分子設計し、高分子合成の手法を用いて作製した。
 はじめに、生分解性を持つポリラクチドを内核、温度応答性高分子であるポリN-イソプロピルアクリルアミド(PIPAAm)がそれを覆うような外殻を形成する高分子ミセル型に薬物キャリアーの分子設計を行った。このPIPAAmはある特定の相転移温度を境に、温度に応じて親・疎水性を変化させる高分子である。この分子設計は、第1に薬物を高分子ミセル内に内包し、薬物と正常細胞を隔離することで安定に血管内を循環させ、第2に体外から標的部位のみ加温することによって、高分子ミセルの温度応答性外殻の表面物性を変化させることにより、標的部位との相互作用を増大させ局所的に薬物を集積させることができる。このとき、体外からの加温には腫瘍の温熱療法などに用いられ、数mm角の精度で局所加温できるハイパーサーミアが応用できる。本研究において、詳細な分子設計に基づいて、粒径が数十nmの単分散な球形の温度応答性高分子ミセルの作製に成功した。この温度応答性高分子ミセルは、低温では球形を保ったまま長期に水溶液中で安定であることが確認され、高温ではミセル外殻が相転移を起こし表面が疎水性になることによる凝集が観察された。これは、この新規な薬物キャリアーが、体外からの温度刺激により表面物性を変化させ、生体内での動きをリモートコントロールできることを示唆している。さらにこの温度応答挙動を原子間力顕微鏡(AFM)を用いて直接観察することに成功した。また、これらのミセルに抗ガン剤を効率よく内包させる手法を考案し、このミセルの有用性をさらに高めることができた。2000年度は特にこの薬物内包に関する成果を論文にまとめた。