表題番号:2000A-856 日付:2002/02/25
研究課題陽明学の文献学的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 専任講師 永冨 青地
研究成果概要
 今回の特定課題により、従来全く研究のなされてこなかった王陽明の著作である「陽明兵筴」を発見することが可能となった。
 本書の発見およびその訳注により、「王文成公全書」の軍事的資料の価値を再認識することが可能となった。本書の内容は『伝習禄』に匹敵すると言っても決して過言ではなく、しかも『伝習禄』にはほとんど見られない兵事に関する問答を記すものだからである。
 王陽明の学問と兵事の関係は、王学研究者のみならず、多勢の関心事であろう。が、『伝習禄』を始めとする王学の研究資料には、陽明が兵事について論及したものがほとんど無い。否、あるにはあったのであるが、それはあまり意識されない状態にあった。本書の発見より、王陽明の学問と兵事を有機的に結合することが可能となったのは、特筆すべき成果であった。
 本書に記載されているのと同様の内容は、「王文成公全書」の巻末「世徳紀」の中にあったが、この文は銭徳洪の評論の中に組み込まれていたため、注目されなかった、あるいは見逃されてきたと言ってもよいであろう。本書のような形で取り上げることによってこそ、その価値は認識されると言ってよく、この意味で本書の価値は大きいのである。
 また、今回の調査により、本書以外にも、王陽明の兵学書が三種現存することを確認できた。これらの著作は、単に机上の空論たるに止まらず、実践を踏まえた上でのものであり、上記の王陽明の思想との関連以外に、彼の伝記研究にも、新たな光を投げかけるものである。
 以上述べたごとく、本書の発見は、王陽明の思想・伝記研究に新生面を開くものであり、今後より多くの研究者によって調査が為されるべき重要な資料であることが確認できた。