表題番号:2000A-825 日付:2002/02/25
研究課題メディアのグローバリゼーションと文化的アイデンティティ―――多言語社会台湾のメディア変容を対象として
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育学部 教授 伊藤 守
研究成果概要
 2000年度の調査時点では、台北で、従来の地上波放送5局をはじめ、音楽専門局、総合編制局、アニメ専門局、映画専門局、日本の番組専門局、宗教専門局、CNNやHBOやESPNなどの欧米系衛星テレビ局を含めて、90チャンネル以上視聴可能である。香港資本が出資するTVBSG局や2000年からSONYが出資した超視に象徴されるように、現在の台湾のテレビメディアは、台湾/欧米/日本/香港のメディア資本が複雑に交錯する経済/政治的環境のもとで、日本語/英語とともに「国語」たる北京語、さらに放送用語として近年使用されはじめてきたミン南語など、多様な言語が飛び交い、異質な文化が重層化する、複合的なメディア空間を作り上げている。基幹的テレビ局である台視(TTV)、中視(CTV)、華視(CTS)の3局は、「国民党寄り」「保守的」とみなされており、とりわけ「娯楽番組」は面白くないとの評価を受けている。他方で、CATVが浸透してからは、番組のスタイルが「ソフト化」したとの評価もある。CATV各局は、チャンネルが濫立し過当競争の状態にあると認識されており、他社との差異化をどうはかり、独自性をいかに発揮するかが課題である。放送内容に関しては、送り手側/受け手側ともに、暴力場面や性的描写が多いことに危惧している。日本の番組に関しては、欧米の番組と比較して、年代を超えて「親しみやすい」「近しい感じ」と受け止められている一方で、「裸のシーンが多い」とのマイナスの評価もある。特に若年層では、日本のアニメについて、「緻密さ」「画面の美しさ」「ストーリー性」で高く評価されていることがわかった。さらに、日本の番組については、その評価が、年代差よりも、「外省人」「本省人」という差異によってかなり異なる、との意見があったことは、大変興味深い。今後の調査で検証すべき点である。
 今後は、今回の調査をふまえ、CATV各社の経営体質、外国資本との関係、自主制作番組の割合、制作理念、北京語とミン南語の併用についての局の考え方などより詳しく解明することが必要である。また、多角的な報道がなされていると視聴者が認識しているか、外国の番組とりわけ日本のドラマ番組や情報番組を視聴者がどのように受容/消費しているか等々、オーディエンスの視点からの調査を実施することが、台湾の文化的アイデンティティを考える場合、不可欠であるだろう。