表題番号:2000A-805 日付:2005/03/18
研究課題英語話者と日本語話者による語のアクセントの実現とストラテジーの音響的考察
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学部 助教授 近藤 眞理子
研究成果概要
 本研究では日本語を学習中の英語話者4名の日本語の発話を日本語話者5名の日本語と比較し、語アクセント具現化の方法と英語アクセント具現化の日本語への干渉を調査した。実験にはアクセント位置のことなる2モーラ語(籠―加護、型―肩、量―傘、等)を用い、語アクセントの有無による基本周波数の変化、母音の長さ、母音の強度を比較した。日本語話者の結果には有意な個人差は見られず、いずれの被験者も語アクセントは基本的には基本周波数の変化で表し、語アクセントの有無により、母音の長さや強度に有意な差が見られることはなかった。
 一方、英語者においては、まず被験者のデータに個人差が大きく、どこまで英語話者の傾向として一般化が可能かがまず問題となろう。また、英語話者は第一モーラにアクセントを置くことは問題がなかったが、語アクセントの位置が実験用のテキストに明確に示されていたにもかかわらず、第二モーラにアクセントを置けないサンプルが少なからず生じた。また特に無アクセント語は、殆どのサンプルで第一モーラにアクセントが置かれていた。語アクセントが正しく置かれていたサンプルを取り出し、アクセントの有無により、同種母音の長さと強度を比較をした。母音の長さではアクセントが置かれた母音は置かれない母音と比べて、明かに継続時間が長くなっていた。その理由としては、英語においてはアクセント核のある母音の継続時間が長くなるため、その母語の干渉により母音が長くなったと考えられる。また英語では、アクセントの置かれない母音には弱化現象が起こり、調音の中舌化に加え継続時間も短縮されるため、日本語においても非アクセント母音の弱化現象という英語からの別種の干渉の両方が原因として考えられる。また、アクセントの置かれた母音の強度に関しても、継続時間と同様、英語話者の日本語ではアクセントの置かれた母音には顕著な強度の増加がみられ、アクセントの置かれていない同種の母音の強度とに有意な差が認められた。
 この実験の結果から、英語話者は日本語のアクセントを表すために、日本語話者と同様、基本周波数を用いているが、同時に英語における語アクセント具現化の音響特徴(母音の継続時間と強度)も移行していることがわかった。また、個人差がかなりあるものの、継続時間の制御を比較的うまく行っている被験者には、ピッチ幅を押さえることにより継続時間の制御を行う傾向もみられた。この点に関しては今後の詳しい調査が必要と思われる。