表題番号:2000A-540 日付:2002/06/03
研究課題時計遺伝子利用による分子時間薬理学研究の新展開
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学部 教授 柴田 重信
研究成果概要
臨床的に心筋梗塞の発症時間が午前中に多いことが知られているが、その詳細なメカニズムについては分かっていない。ところで、血液凝固―線溶系にプラスミンが深く関わっているが、プラスミノーゲンアクチベータインヒビター1(PAI-1)の活性化はプラスミンの産生を低下させ血液の粘性を高めると考えられる。PAI-1の遺伝子発現には明瞭な日内リズムがあり、人の場合明け方に、夜行性動物の場合夕方に発現量が増大する。このような研究から、PAI-1遺伝子発現が体内時計遺伝子の制御下にある可能性が強く示唆される。(1)正常マウスならびに時計遺伝子clockの欠損マウスを用いて、心臓におけるPAI-1発現のサーカディアンリズムについて調べた。(2)制限給餌時のPAI-1遺伝子発現リズムの変化を調べた。さらに、(3)時間薬理学的見地から、アドレナリン投与や不動、絶食ストレスさらにトレッドミル、強制水泳などをPAI-1遺伝子発現が高い時刻と低い時刻に処置し、PAI-1発現にどのような影響を及ぼすかについて調べた。
(1)PAI-1遺伝子発現は夜間の始めをピークとする日内リズムが見られ、clockのミュータント動物ではそのリズムの振幅が消失していた。(2)給餌時刻を昼間に設定することにより心臓のmPer遺伝子発現のピークも昼間に移行したが、それと同時にPAI-1遺伝子発現も昼間にピークが来た。(3)アドレナリンの投与はいずれの時間帯もとくに発現が低い時間帯でPAI-1遺伝子発現を増大させたが、既に発現が高い時刻でも、それ以上に発現を増大させた。また、不動ストレス、絶食ストレスでも同様な結果を得たが、運動刺激はなんら影響を及ぼさなかった。
PAI-1遺伝子発現は一部体内時計の支配下にある可能性が示唆された。また臨床的に、心筋梗塞のリスクファクターが高い時刻においては交感神経の活性化やストレスに対して注意する必要性が強く示唆された。