表題番号:2000A-538 日付:2002/04/19
研究課題地方分権と財政調整制度 国際比較によるモデルの探求とわが国の抜本的制度改革の提言
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 社会科学部 教授 林 正寿
研究成果概要
地方分権と財政調整制度 国際比較によるモデルの探求とわが国の抜本的制度改革の提言
 イギリス、フランス、ドイツ等先進国の財政調整制度には以前からなじんでいたが、途上国等の財政調整制度がどのようになっているのかほとんど研究してこなかった。今回は、国際協力事業団の「地方行政と地方分権」研究会のメンバーとしてタイ、フィリピン、インドネシアについても研究できた。また、もうひとつの国際協力事業団のプロジェクトのタイの地方分権推進援助との関係において、タイの地方行財政制度について研究し、わが国の制度や先進諸国との比較において、具体的な提言をすることができた。
 わが国の地方制度も現在流動的な状態にあり、公共部門と民間部門との役割分担に加えて、国と地方との役割分担の全面的見直しが不可欠である。これまでは国が温情主義的に地方の面倒を手厚く見てきたが、地方の活力と創意工夫を奨励するためにも、もっと地方に自治を認めるか、強制する必要性も主張されており、財政調整制度である地方交付税のありかたが注目されている。今回の研究においては、外国の例を参考にしながらも、豊富なわが国の地方財政関係のデータを計量経済学の分析手法を用いて、わが国の地方財政調整制度である地方交付税を分析対象とした。ひとつの視点はあまりにも複雑な地方交付税の算定方式を単純化できないかどうかであり、もうひとつの視点はきわめて精緻な計算で調整された地方公共団体の財政において、規模の経済という現象が各種地方財・サービスの供給において見られるかどうかである。規模の経済という現象と老人介護のような新しい事務配分という現実は、明治、昭和の地方公共団体大合併についで第三次地方公共団体(とりわけ市町村)合併の必要性の検討を迫る。タイにおいても、雨後のたけのこのように創出された市町村の数は7000近くにのぼり、ほとんどはあまりにも弱小で分権化に伴う新しい事務を遂行する能力に欠ける。このように同じレベルではないが、わが国の地方分権や地方公共団体合併の動向は、国際的視野におけるタイ等の地方分権とか地方公共団体合併の必要性とも類似の問題を提起する。国際財政学会で報告したときにも、何人かの参加者からかれらの国でもこのような問題を抱いており、情報の交換を求められたりした。
 地方交付税制度はきわめて複雑で多面的であり、今後はさらに補正係数の計算方式等にメスを入れていく予定である。