表題番号:2000A-536 日付:2004/03/29
研究課題アジア経済危機と食料消費の変化に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 社会科学部 教授 弦間 正彦
研究成果概要
アジア諸国をおそった経済危機は、金融を始めとするサービス業と製造業の生産活動を大幅に減速させ、それらの部門の構造改革を余儀なくさせた。それ以外に、家計部門においては、実質所得の減少と実物・金融資産の価値の目減りを受け、個人消費の減退がもたらされた。個々の単価が低く、所得弾力性の低い食料においても、相対価格の変化からくる消費の代替が見られ、これまでの経済成長期に観察された食生活の変化と異なった動きが観察されてきている。もともと、韓国・台湾・日本においては、農産物の国内市場の自由化が段階的に進んでおり、肉などの価格の低下が見られ、さらには所得の向上に伴う都市世帯のみならず農村世帯においても見られるコメの劣等財化もあり、一人当たりコメ消費量の減少と、一人当りの肉、野菜の消費量増加が観察されてきた。今回のマクロ経済の停滞は、この傾向にブレーキをかける方向で、食生活に影響を及ぼしてきている。本研究は、この経済危機以降の変化が、実質価格や実質所得など経済的な要因の変化に対応した一時的なものなのか、それとも都市から農村への人口の再移動など他の非経済的要因の変化に関連した長期間にわたる構造的なものなのかを、アジア各国の個別のケースについて検証するものであった。
まず、韓国、台湾、日本、インドネシア、マレーシアから消費と所得の変化に関する時系列データ、社会・経済指標の時系列データを入手し、データベースを構築した。その後、このデータベースを使用し、需要関数が各国においてシステムとして計測された。そこでは、経済危機後の消費の変化が、実質価格や実質所得の変化によって説明できることが確認できた。一方で、都市から農村への人口の回帰は、一時的に消費変化のスピードを鈍化させたことが確認できた。これらの消費面での動きは、東アジアの国においては国内食料生産のあり方を再考慮する動きにもつながっており、農業・農村に関する政策の転換時期となったことも確認できた。