表題番号:2000A-510 日付:2002/05/07
研究課題発生におけるポリコーム相同遺伝子群の機能解析
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育学部 教授 東中川 徹
研究成果概要


発生過程における「細胞メモリー」の分子機構を明らかにすることを目的として、マウスおよびゼブラフィッシュのポリコーム相同遺伝子群について研究を行った。① マウスポリコーム相同タンパク質M33について新しい知見を得た。成体マウス肝臓のM33タンパク質の大部分は細胞質に局在し、細胞核にもわずかに認められた。核M33は細胞質M33がリン酸化されたものであった。核M33の電気泳動上の移動度が増殖活性の高いF9細胞のそれと一致することから、細胞増殖、リン酸化、核移行の関連を再生肝を用いて調べた。M33は肝再生において細胞分裂に同調してリン酸化され、かつ核に移行し、再生が終了すると再び細胞質に戻るというダイナミックなシャトリングを示すことが明らかになった。M33タンパク質、さらにはポリコームタンパク質の機能解析に新たな視点を開いた。② ゼブラフィッシュのポリコーム相同遺伝子 pc1, psc1 およびph2 遺伝子について研究を進めた。特に ph2 遺伝子において興味ある知見を得た。この遺伝子はひとつの遺伝子座から ph2αと ph2βの2つのmRNAを転写する。両mRNAは胚発生において体節に特徴的な発現を示した。すなわちβがまず発現し、次いでαがそれに続いた。1個の体節レベルで見るとαは後方から前方にかけて発現の強度勾配を、βは逆の勾配を示した。モルフォリーノ・アンチセンス・オリゴを胚に顕微注入してβの発現を阻害すると、予期したとおり遅筋の形成障害とそれを反映する尾部の彎曲が認められた。pc1, psc1 は、特徴ある発現パターンを示さないが、それぞれのタンパク質は核に局在し、タンパク質レベルで相互に、またそれ自身と結合することが明かとなった。これらの知見は、ゼブラフィッシュにおいてもポリコーム遺伝子群が存在し、「細胞メモリー」機構においてその機能を発揮していることを示している。