表題番号:2000A-501 日付:2003/11/06
研究課題ホッブスの主権国家概念とヨーロッパ初期近代の政治思想
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学部 教授 佐藤 正志
研究成果概要
 本研究は、ホッブズにおいて確立された抽象的で、非人格的な主権国家概念について、その形成過程のコンテクストをヨーロッパ政治思想史の中で明らかにし、それを通じて、初期近代において成立した近代的な国家概念の特質と意味を考察しようとするものである。
 近代的な国家(State)概念は古代中世以来のcivitas, res publicaに代わる概念として成立するが、それは共通善を目的とし、法の支配に基づいた伝統的な政治秩序観が、主権によって象徴される中央集権的な領域的支配という政治秩序観にとって代わられることを意味する。しかしその転換は、初期近代を通じた長い過度的プロセスを経て行われるのであり、その過程は、伝統的な政治秩序観と近代的な政治秩序観が競合するなかで、伝統的な国家概念が用法のずれを通じて新しい意味を絞り出し、また新しい国家概念が多様に揺れる用法の中から新しい意味を引き出してくる過程であった。そのことは、近代的な国家概念を確立したホッブズが、英国において16世紀以後一般的に用いられるようになった、res pubulic に由来する'Commonwealth'という語をもっぱら好んで用いて、かれの国家を語っていることに如実に示されている
 本研究では、とくに、ホッブズの機械論的な政治哲学のなかに、そのような近代的な主権国家概念の成立の根拠を見出し、かれの国家概念を軸として初期近代における政治哲学の転換の意味を理解しようとした。
 この成果をもとに、今後さらに、この国家概念の転換を、従来みられたような中世の法学的概念の展開の文脈においてのみならず、伝統的な共和主義と立憲主義、および近代の自然権思想という、近年の初期近代の政治思想研究において注目されている三つのパラダイムの相互的な連関の文脈において明らかにすること、とりわけ、16・17世紀のフランスにおける主権と法の支配をめぐる論争が同時代の英国に与えた影響を、ホッブズの概念形成のなかで捉え直し、またホッブズの主権国家概念が18世紀の啓蒙思想に与えた影響をたどることによって、比較思想史的に近代国家の概念の特質を探求することをめざしたい。