表題番号:2000A-249 日付:2002/02/25
研究課題事業構造のアンバンドリングとその類型化
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) アジア太平洋研究センター 教授 山田 英夫
研究成果概要
 規制緩和、オープン化、ユーザーの技術・情報レベルの向上などを背景に、事業構造のアンバンドリングが進んできた。事業構造のアンバンドリング化に関しては、これまでにも内田(1998)、御立(1998)、名和&荒巻(1998)、大庫&名和(1999)などの研究があるが、これらは、どのような形でアンバンドリングが進んでいくかに関して、インテグレータ、オ-ケストレーター、レイヤーマスター、マーケットマネジャー(内田 1998)等の代表的なモデルを提示したにすぎず、分類の軸も明示されず、網羅性にも欠けていた。
 本研究では、網羅性をもった類型化を試み、その手がかりとして、アンバンドリングの進む業界における新規参入業者のバリューチェ-ン(価値連鎖)の持ち方に着目した。
 具体的には参入業者が、どのようにバリューチェ-ンのアンバンドリングを進めて参入を果たしてきたかを分類するために、「バリューチェ-ンの構成要素」と「業界の何を狙うか」という2つの軸を設定した。前者に関しては、バリューチェ-ンの構成要素を変えるか変えないかと、後者に関しては、業界のシェアを狙うか利益を狙うかという2種類に分類した。
 この2軸を組み合わせると、以下の4類型にまとめることができ、第1は、バリューチェ-ンの構成要素は変えずに、しかし全てのバリューチェ-ンは自社保有せず、業界のシェアを狙う参入業者があげられる。この例としては、日本航空、全日空に対する、スカイマークエアラインズが相当する。
 第2は、バリューチェ-ンの構成要素を変え、業界のシェアを狙う参入業者が考えられる。この例としては、日本生命に対して営業マンをもたないオリックス生命が相当する。
 第3は、バリューチェ-ンの構成要素は変えずに、業界の利益を狙う参入業者が考えられる。この例としては、パソコン業界におけるインテル、マイクロソフトが相当する。
 第4は、バリューチェ-ンの構成要素は変え、業界の利益を狙う参入業者が考えられる。この例としては、ヤフーやオートバイテルなどが相当する。
 こうした4類型は、決して静態的なものではない。1つは、類型間の移動もありうる。例えばアスクルは、当初は第2類型の企業として参入したが、その後はオフィスサプライの総合ポータルとして第4類型の企業に変身をとげている。
 もう1つは、各類型の中での変化である。時間の経過と共に、各類型の中の企業も、以下のように変化をとげていく。
 第1の類型では、新規参入業者だけでなく、既存企業もコスト競争力をつけるためにアウトソーシングを進め、企業がコア・コンピタンスとして何をもつかが、より問われてくる。同時にアウソトーシング事業は、最初は単なる受託事業から始まるが、多くの企業から受託を受けるにつれて、新たな第3類型の企業が生まれる。
 第2の類型に関しては、資源を豊富に持つ大企業が、既存資源とのキャニバリゼーションによって、新規参入業者に対して不利になると当初考えられた。しかし最近では、バーチャルなチャネルとリアルなチャネルを併せ持つ「クリック・アンド・モルタル」が評価され、むしろバーチャルだけに頼る企業の衰退例が数多く出てきている。
 第3の類型に関しては、特化した機能の前後の機能をさらに垂直統合しようという動きが出ており、これはアンバンドリング業者が再びバンドリングを強めて利益を自社内に採り込もうという動きである。
 第4の類型に関しては、ポータル競争がその典型例であるが、何で利益を上げるかが未だ明確になっておらず、今後、広告料、通行料、参加料などのの様々な収益源が模索されていくであろう。