表題番号:2000A-230 日付:2002/02/25
研究課題ドイツ語教材としてのドイツのポピュラーソング利用法の開発
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 語学教育研究所 教授 岡村 三郎
研究成果概要
 この研究の出発点となった前提は次のようなものである。
(1) 最近(過去10年)のドイツのポピュラーソングにはドイツの現代社会の変化が反映されている。
(2) これらのソングをドイツ語教育の教材として上手に利用すれば、興味深いドイツ語の教材になるのみではなく、学習者の現代ドイツへの理解を深めることもできる。
この研究の遂行のために、まず比較的網羅的にポピュラーソングを集め、それらを音楽性、内容(ドイツの社会の変化が現れているか)、歌のテキスト(教材として適しているか、難易度はどうか、聞き取りやすいか)といった観点から分析をおこなった。この時期のドイツのポピュラーソングはSchlager(流行歌)、ラップ、テクノ、ポップ/ロックに大別できると思われる。Schlager(流行歌)はメロディーは概して耳になじみやすいものの、内容的には紋切り型に恋愛を歌ったものが多く、現代の社会の変化を強く反映しているとはいえない。聞き取りやすいものが多いが、内容の点ではあまり魅力がない。ラップは現代のドイツをもっとも如実に反映しているジャンルであり、「外国人排斥」、「反ネオナチ」、「外国人労働者」、「家庭の崩壊」、「教師への反抗」といった若者達そしてドイツ現代社会が抱えるアクチュアルな問題がストレートに表現されている。内容的には日本人学生にも身近に感じられるテーマもあり興味深い教材になりうるが、歌う(語る)スピードが教材にするにはあまりにも速すぎ、またスラングなどの使用も多く、言葉の点で多数の学生には理解が困難であり難易度の点から大きな問題がある。テクノはダンスのリズムに重きが置かれ、テキストはあったとしても単純なものになり、内容的にはあまり学生の関心を引くものではないと思われる。これら3つのジャンル以外を便宜的にここではポップ/ロックという名称でまとめたが、このジャンルは当然のことだが非常に幅の広い多様なポピュラーソングを含むことになる。それらの曲を、音楽的ななじみやすさ、テキストの聞き取りやすさ、内容の興味深さという点で分析してきた。その最初の成果として、東ドイツ出身のグループとしてただ一つ統一ドイツで大成功したグループDie Prinzenのデビュー以来過去10年の軌跡を探り、彼らの歌の中に現れる統一後のドイツへの違和感に注目し、そこに現れた現代ドイツへの批判的な距離の中にドイツの現状が反映されているという事実を確認し、ドイツ語の教材に向いた彼らの歌を選び、コメントを付け、教材としての扱い方に付いて提言も付し、ひとまとまりのものにし、「語研フォーラム」に投稿する準備をしている。