表題番号:2000A-203 日付:2003/01/13
研究課題戦前・戦中期における米国日系新聞の言語使用に関する調査研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学部 教授 森本 豊富
研究成果概要
 本研究は、戦前・戦中期における米国日系人の日英語の混在使用状況を日系新聞に素材を求め調査するものであった。今回の調査では、戦前・戦中に発行された日系新聞中の日本語記事に現地特有の英語表現がどのような形で介入しているのかを、時系列的に整理することを目的とした。しかし、調査を進める過程で、日系新聞よりも校閲度の少ない特定団体を対象とした雑誌に素材を求めた方が、本件の調査目的にはより適切であると判断した。したがって、当初使用を予定していた新聞ではなく、日系庭園業組合の組合誌である『庭園』誌(湾東庭園業組合)を利用することとした。
 『庭園』誌をとりあげた理由としては、次の2点があげられる。第1に、組合誌という性質上、投稿者の文章が校正される可能性(したがってカタカナ表記の訂正される頻度も)が低いこと。第2に、組合員の多くが所謂「帰米二世」(戦前日本で教育を受けた二世)であり、したがって日本語能力を一定度保持している読者であることがあげられる。また、同誌は、1958年に創刊されて以来、現在までほぼ毎月発行され続けており、長期にわたる観察が可能であることも根拠としてあげることができる。今回の調査では、同誌の1958年11月号(創刊号)から1959年11月号までの1年間あまりをサンプルとしてとりあげた。サンプルの雑誌から、植物名を除いたすべてのカタカナ表記を抜き出し、(1)発音が表記に影響を及ぼした例、(2)日常生活に頻出する語の2つに大別した。さらに、(1)については、(A)[o]が[a]に変化した場合、(B)日系人特有の発音、(C)その他に下位区分し、(2)は、(A)生活・趣味関連の語、(B)職場・組合関連用語に便宜上分類した。なかでも興味深いのは(1)-(A)「[o]が[a]に変化した場合」で、スコットがスカットになり、トムがタムに、コミティーがカミテー、ボブがバブ、ポットラックがパットラック、コンテストがカンテスト、スポットがスパット、ジョニーがジャニー、コンベンションがカンベンションなどと表記されていた。今回の結果を踏まえて、今後はさらに『庭園』誌を長期的に調査検討し、データの整理分類をより精緻化するとともに、40年余にわたる時の流れの中でどのような変化がおきているのかを検証してみたい。