表題番号:2000A-188 日付:2002/02/25
研究課題地球環境時代の多国籍企業
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 社会科学部 教授 長谷川 信次
研究成果概要
 地球規模での環境問題が、今日の企業、なかんずく多国籍企業の経営にとってきわめて重要な意味をもち始めている。戦後の日本経済は、加工貿易をベースとした、エネルギー多消費型経済への転換で発展してきた。またそうした経済発展は、松下幸之助の「水道哲学」に象徴されるように、大量生産・大量販売を範とする日本企業の経営パラダイムに支えられてきた。環境問題の台頭は、そうした日本の経済と企業のパラダイムが限界にきていることを意味する。
 しかも環境問題は、従来の公害問題からいまや地球環境問題へと大きくシフトしている。公害問題であれば、問題が発生してから発生源を特定化し、問題解決を図るという、いわば対症療法でも差し支えなかった。この対症療法が企業レベルでなされた結果、環境規制のゆるやかな国や地域(発展途上国)に工場をシフトさせるという、いわば公害輸出の問題が発生した。ところが地球環境問題の場合、被害の甚大さ、不可逆性(いったん劣化した環境を元に戻すことが難しい)、原因と被害の間の因果関係の見えにくさ、ボーダレス性などから、対症療法では問題解決とはならない。地球環境を循環型のエコシステム(生態系)としてとらえ、企業活動もそうしたエコシステムの中に組み込んでいく(インストールする)ことが不可欠となっている。
 企業をエコシステムにインストールする1つの方法が、企業活動を規制することである。1997年の京都会議での炭酸ガス排出の削減目標に関する国際合意や、2001年4月施行の家電リサイクル法、自動車の燃費に関する改正省エネ法(1999年4月施行)などがその例である。またISO14000シリーズのような、環境監査システムを整備し、企業経営のスタンダードとして浸透を図ることも効果がある。これら一連の法・規制や基準は、これまで生産や販売・流通といった「動脈系」としてのみとらえられてきた企業活動を、消費され終えた後の、製品の回収・処理・再利用を進め、いわば「静脈系」と結びつけていくことを企業に要求している。
 ところが環境問題は企業に対する「挑戦」を意味するだけでなく、「機会」をも提供している、という視点が重要である。環境対応でいち早く優位に立った企業が、ライバルに対する競争優位を確立することにつながるからである。環境技術の開発に成功した企業がその技術を特許化して、莫大な収益を手に入れる。環境技術はスケールメリットが大きく、参入障壁と先発者の優位性を形成する武器となる。環境対応が事業システム全般の見直しを余儀なくし、その中から革新的なビジネスモデルが生まれる。環境は、グローバル活動を通じて企業の競争優位のレベルアップを図る、今日のエクセレントな多国籍企業となるための、もっとも有効な戦略変数となりうる。