表題番号:2000A-186 日付:2002/02/25
研究課題近世ロンドンの地域社会に関する基礎的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 社会科学部 教授 中野 忠
研究成果概要
 急速な都市化を経験した近世ロンドンに関する最近の研究は、ロンドンという巨大都市が、区、教区、あるいは近隣社会といった地縁的組織、およびギルドのような職能団体など、さまざまな「下位構造」もしくは部分共同体の編み合わせからなる多元的社会であったことを強調する。本研究はこうした動向を踏まえて、近代社会の誕生にあたって極めて大きな歴史的役割を果たしたロンドンを、それを構成する地域社会の視点から捉えなおそうとする試みである。ロンドンには100を超える数の教区があり、それぞれが独自の特徴をもっている。しかも区や教区に関してはGuildhall Library(ロンドン)を中心に膨大な史料が残されており、特定の地域社会に研究の焦点を絞るためには、史料の残存状況、および史料の性格・内容に関する綿密な調査が必要である。本年は、シティ内の富裕な教区と貧しい教区、市壁外の教区というタイプの異なる地域を比較するのに適切な教区はどれかという観点にたって、この基礎的な作業を中心に研究を進めた。マイクロフィルム、および現地での調査の結果、St Dunstan in the Westをはじめとする三つの教区が史料の面で有望であることが判明し、現在、それぞれの教区の教区会記録、会計簿、貧民調査、住民リストなどの史料の転写・分析を進めている。現段階の分析結果をみても、これら教区のあいだでは、人の移動(turn-over)にはかなりの違いがあったことがわかる。この違いが、それぞれの地域社会におけるアイデンティティのあり方とどう関係していたかという問題を明らかにすることが、当面の課題である。その成果は近日中に口頭発表のかたちで明らかにする予定である。本年はまた、都市財政のあり方の分析を通じて、ロンドン自治体政府が地域社会とどういう関係にあったかという問題を解明することも平行して行った。その成果の一部は『紀要』に報告しておいた。