表題番号:2000A-183 日付:2002/02/25
研究課題イギリスにおける行政改革と公務員労使関係
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 社会科学部 教授 清水 敏
研究成果概要
 サッチャー以降の保守党政権の下で強力に推進されてきた行政改革は、公務労使関係の法的枠組みを大きく変容させた。象徴的な出来事は、公務従事者の中核に位置するCivil Servantの地位の明確化であろう。Civil Servantは、第二次大戦後、法的に曖昧な地位に置かれてきた。すなわち、国王とCivil Servantの関係は、国王による一方的任命か、それとも雇用契約関係であるのか。この問題は、1991年Nangle事件高等法院判決が雇用契約関係と見なすに至り、ようやく決着をみた。これは、Civil Servantが民間労働者と同一の法的地位に立つことを意味するのみならず、保守党政権が推進してきた、市場主導の行政改革の基本原則と符合することはいうまでもない。この判決を踏まえて、政府はCivil Servantについて契約関係を基本に据えた人事管理改革を実行に移した。Civil Service Codeを廃止し、Civil Service Management Codeを新設したのは、その一例である。これにより、国王がCivil Servantを意のままに解雇しうる旨の文言が削除された。これは、法形式的には、Civil Servantの雇用上の地位を強化したようにみえる。しかしながら、Civil Servantは1971年以降、既に「不公正解雇法制」の適用下にあっただけではなく、旧Codeの定めにもかかわらず、ホイットレー協議会の労使合意にもとづき、事実上、強固な雇用保障が与えられていた。したがって、旧Codeの廃止は、実質的に、Civil Servantの雇用保障に何らの影響をも及ぼさなかった。
 他方、旧Codeにおける国王による一方的勤務条件変更権限は、新Codeに引き継がれた。そしてこの権限の発動を抑制してきたホイットレー協議会が事実上崩壊したことにともない、今や、使用者による勤務条件の一方的変更はきわめて容易となった。業績主義的給与など給与制度の根本的な変更は、その典型であろう。しかし果たして使用者の一方的変更権限は、雇用契約原理と矛盾なしに存立しうるのか、また、雇用契約関係を前提にした場合、Civil Servantの職務の特殊性からこの規定を正当化できるのか、わが国の公務員制度改革とも関連して、これが今後の検討課題となろう。
 なお、特別研究期間の延長が許可され、現在イギリスに滞在している関係上、研究成果の公表は、帰国後を予定している。