表題番号:2000A-181 日付:2003/05/22
研究課題医療用医薬品の薬価制度と流通システムに関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 社会科学部 教授 井上 正
研究成果概要
 本研究では、医療用医薬品の流通システム改革に関する、井上・手塚(1998)の理論モデルから得られた結果である、
1)医療用医薬品メーカーの利潤は、流通改革後は上昇する。
2)卸売業者については、改革後にその利潤は増加する。
3)医療機関の利潤(薬価差益)は減少する。
に関し、財務及びその他の一般に利用可能なデータによる実証分析を行った。その結果、明らかになったことは、1)に関しては、医療用医薬品メーカーの営業利益は改革後,急激に上昇しており、これは販売費・一般管理費の相対的減少によるものであり,流通改革によるものと思われ、さらに販売費・一般管理費の構成費目を分析すると,値引補償額を費用計上すると思われる拡販費が改革後,減少しており,流通改革により不要となった値引補償の一部が営業利益増加の一因となったことが観察できた。そこで、理論モデルの予測 1)は、医薬品メーカーに関する財務データからも支持されることが明らかになった。また、2)、3)については、流通改革は卸業者の利益率上昇をもたらしたが、流通改革による新たな取引のやり方から不利を被る医療機関の対抗的な行動を惹起し,価格決定のバーゲニングが複雑化し,行動の変化をもたらしたため、それは一時的なものであったという結論を得た。しかし、一時的ではあるにせよ、データは理論モデルの分析結果を支持しているということがわかった。さらに、流通改革により医療機関の利潤(薬価差益)が減少したため、卸業者と医療機関との関係は新たな局面を向かえているということも明らかになった。
 以上から、医療用医薬品メーカーの利潤に関しては、流通改革後は上昇し、卸売業者の利潤については、改革後に(一時的ではあるにせよ)増加し、医療機関の利潤(薬価差益)を減少させた。その意味では、今回の流通改革は医療機関の薬価差収入を減らし、診療報酬を上げることで、医療機関の薬価差収入を求める動機を減らし、いわゆる「薬漬け医療」を緩和し、健康保険財政を立て直すという点で、一定の評価を与えることができる。