表題番号:2000A-144 日付:2003/03/10
研究課題反応拡散方程式系および関連する界面問題の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 教授 山田 義雄
研究成果概要
 本年度の研究成果は主として次のような2つの未知関数u,vに関する反応拡散方程式系
       ∂u/∂t=μΔu+f(u,v), ∂v/∂t=νΔv+g(u,v) in Ω×(0,∞)  Ω: 境界∂Ωで囲まれた領域
の正値定常解集合の構造に関するものである。この方程式系は数理生態学分野では、生存競争をしている2種類の生物の個体数密度u,vの変化を記述し、ラプラシアンΔは拡散効果を表す。反応項f,gu,v間の相互作用を記述し、2種類の生物が競合関係にあるかまたはprey-predator関係にあるかにより関数関係は異なってくる。また、正値定常解は数学的に重要な項であるのみならず、生態学的にも共存解として大きな意味がある。競合モデルについてf,gがLotka-Volterra型の関数として与えられているときは、非常に多くの研究者によって研究されており、例えば正値定常解が存在するための十分条件は広く知られている。しかし、これに反して、解の一意性・非一意性に関する研究は困難を伴い、Dancerらによる研究などいくつかの研究はあるものの十分に満足できるものではない。著者は、数年前から正値定常解の多重性に関する研究に取り組み、いかなる条件下で解が複数個存在しうるか調べている。その結果、拡散係数μ,νをパラメータ空間の点とみなした場合、これらが非常に小さい場合、およびu,v間の相互作用に大きな差があるときにはμ,νが一定の範囲にあるときには正値定常解が2個以上存在することが理論的に明らかになってきた。しかも、空間次元が1のときには、数値解析的にも複数個の解を見出すことができ、解のプロフィールについてもある程度明らかにすることができた。これらの結果は、イタリア・シチリアで開催された「第3回非線形解析学者の国際会議」や日本で開催された「第1回東アジア非線形偏微分方程式シンポジウム」で講演発表した。
 なお、秋以降はさらに反応項をより一般化し、f,gがLotka-Volterra 型の以外の関数で与えられるときに定常解集合の構造についてどんな結果が得られるか調べている。たとえば、fがFitzHugh-Nagumo型の3次関数で与えられるとき、正値定常解が存在するための十分条件や、定常解の作る集合の構造も大きく変化することがわかる。このような結果を導くために、現在は分岐理論やコンパクト写像に対する写像度の理論を用いているが、限界もあるため数値実験による解析も視野に入れている。