表題番号:2000A-133 日付:2002/02/25
研究課題補酵素Mによるメチル基転移過程におけるイオウ超原子価状態の影響
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 教授 多田 愈
研究成果概要
 メタン菌によるメタン発生の最終2段階はチオール基を有する補酵素M(HO3SCH2CH2SH)が関与する反応である。われわれは有機化学的に類形の無いこれらの反応を、基質・補酵素をすべて簡単なモデル系に置き換えてシミュレーションすることに成功した。このモデル反応においてはB12補酵素を簡単なコバルト錯体であるコバルト-(salen) (1)で、また補酵素Mを2-(2-hydroxy-perfluoroisopropyl)-thiophenol(2)でモデル化した。
 モデル化合物12からは化合物2のチオールラヂカルが発生することが分かっている。モデル化合物2は大きな置換基を有するにもかかわらず、他のオルト置換チオフェノール類に比べてはるかに高い反応性を示した。この効果は電気陰性度の高い酸素のイオウラジカルへの配位効果以外では説明できず、この様なイオウの超原子価状態がラジカル反応性を高める効果を明らかにした始めての例である。イオウはこの遷移状態では(3-S-10)と表記できる両三角錐形の超原子価状態にあると考えている。
 一方、メタン発生の最終段階はメチル化補酵素と補酵素HTPラジカルから混合ジスルフィド、(補酵素M)S-S(HTP)、とメタンが発生する過程であるが。補酵素Mのモデルとしてメチル化された化合物2を用いると、この反応は抑制された。すなわち、ここで分子内配位性基(OH)が配位した超原子価状態はすでに(3-S-10)状態を取っており、これにさらにイオウラジカルが相互作用するとイオウは(4-S-11)という電子配置となり不安定化すると考えられる。
 このように補酵素Mの化学的性質を考えるとき、反応中心であるイオウの超原子価状態がその反応性に大きな影響を及ぼすことを明らかにすることが出来た。