表題番号:2000A-126 日付:2002/02/25
研究課題高速精度保証付き数値計算に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 教授 大石 進一
研究成果概要
 精度保証付き数値計算とは数値計算の結果得られた近似解の近くに真の解が存在することを保証し、その(局所的)一意性や真の解と数値解の誤差をシャープに評価することを目的として行われる数値計算のことである。したがって、数値計算におけるあらゆる誤差を数学的に正しく評価して、この目的を達成する必要がある。従来は、このようなことは理想ではあるが、理論的にも現実的にも難しく、精度保証付き数値計算は実質的に不可能であると考えられていた。本研究では、IEEE754の倍精度浮動小数点数規格にもとづき、浮動小数点数演算に於ける丸めのモードを適切に制御する手法を関数解析的な摂動理論(数値解析理論)を組み合わせることにより、精度保証付き数値計算が高速に実行できること明らかにする目的で実施された。以下、その成果の概要を述べる。
1.連立一次方程式の数値解の高速精度保証 IEEE754の上への丸めと下への丸めのそれぞれのモードでベクトルの内積を2回実行することにより、ベクトルの内積の値を上下からシャープに評価できることを示した。これを用いて、連立一次方程式の数値解の精度保証を行うためのアルゴリズムを開発した。LU分解の事前誤差評価式を巧みに利用することで、数値解をガウスの消去法で求めるのと同じ手間でその精度保証ができることを示した。例えば1000x1000密行列を係数行列に持つ場合、Pentium III 800MHz CPUで最適化BLASとLAPACKにより、数値解は2秒で求まるが、その精度保証も2秒で実行可能であることを示している。
2.行列の固有値の高速精度保証 Bauer-Fike型の固有値の摂動定理を利用して、行列の固有値を高速に精度保証する手法を1の技法を応用して確立した。この手法は、多重固有値をもつ一般複素行列に適用可能で、広い応用範囲をもつ。