表題番号:2000A-116 日付:2002/10/04
研究課題マルチメディアによる中国語教材の作製及び運用に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 商学部 助教授 小川 利康
研究成果概要
 昨年度の教育のオープン化研究(共同研究:99-4 中国語CALL教材開発および教育的効果の検証 95万円)の成果をベースとして、以下の研究を進めた。
 2000年度春学期(2000.4~2000.7)学生の時間外学習及び予習を支援するために、下記のコンテンツをWeb上で配信した。配信に当たり、教員個人のWebだけでは容量に限りがあるため、MNC研究部会「中国語教学研究会」として200MBのスペースをMNCから提供していただいた。http://www.waseda.jp/projects/chinese/index.htm
 音声ファイルについてはもっとも標準的な圧縮フォーマットであるReal Audioを採用し、教材についてはAcrobat Reader4.0形式にした。これはAcrobat Readerが4.0以降、日中韓の2バイト文字を標準でサポートし、クライアント側が中国語フォントなしで利用できるためである。
 対象:「総合中国語」受講生100名
 配布教材:
 1.映画「愛情麻辣湯」(中国語音声)をreal audioに変換して公開映画の動画データはVideoCD形式で、事実上Mpegフォーマットに準拠したものである。従って、容易に音声部分だけを抽出し、Waveファイルフォーマットに変換した後、Real Audioにエンコード可能である。圧縮されたファイルは各回の授業の進度に合わせて分割するので、それぞれ1~2MBになり、学生たちはダウンロード後、学内端末か自宅で聞きながら、教材プリントに取り組むことができる。学内端末は殆どの場合ヘッドフォンが付属していないため、学生たちはヘッドフォンを持参せねばならなかったが、特に大きな問題は生じなかったようだ。【なお、この映画は東光徳間が日本における上映権を保有するため、同社に教育目的に限定する条件で二次的な加工、利用の許諾をいただいている】
 2.上記の音声教材に対応する教材プリント(自作)をAcrobat Reader4.0形式ファイルに変換して公開。現在、中国語(簡体字、ピンイン)は、HTML.Word file.pdfといずれの形式でも容易に読み書きできるようになっているので、大きな問題は生じないだろうと見込んでいたが、サーバーサイドの設定やAcrobat Readerの不具合が重なって、Wordファイルも利用せざるを得なかったが、教室では印刷したプリントも同時に配布したため、深刻な問題には至らなかった。とはいえ、学生側の紙メディアへの依存度は大きく、また実際に学習面でも「手を使って書く」作業はきわめて重要になるので、教材作製の際、「書く」勉強とオンラインで学ぶ事項とをどのように切り分けるかは大きな問題である。
 3.中国語検定試験(3級、4級)を出題形式別に分類したドリル問題を配付。これはCALL99対応のドリル問題で、学生はWebからダウンロード後、自習時間に回答し、FDにて提出させた。3ヶ月弱の期間で学生たちが説いた問題数は200題を超え、2回、3回と繰り返した学生も少なくなかった。単純な語彙、文法問題であり、それも選択肢問題が中心であるが、基本的文法事項の定着をはかるには有効な学習方法である。しかし、配布した問題をFDで提出させたため、整理には多大な労力が必要となり、教師の負担の問題から、これ以上の分量を学生に配布することは不可能に近いと言える。その意味で、問題の配付から回収、成績処理まで自動化できるソフトウェアの開発が必要となってくるだろう。現在、Webブラウザ上で問題を解答させ、正誤判定、学習履歴管理をやってくれるソフトウェアをcgiベースで開発したいと考えている。
 なお、授業内容、公開教材の技術的な問題の解決にはMailing Listを利用した。
 実験の結果、一定のPCリテラシーを有する学生は殆どが利用できたものの、一部の学生にはやはり混乱が見られた。幸い完全にネットワーク上のみで完結する形態を取らず、普通教室で授業を行い、教材についてはプリントも配布する形式を取ったため、最終的には全員が対応できるようになった。今回の実験によって、コンテンツ作製のために要する人員、経費の面さえ解決できれば、Webベースの中級レベルの中国語の授業を展開することは可能であるという感触をつかむことができた。
 今後の問題は
 1.ソフトウェアで代替できる作業はソフトウェアに任せる。
 2.省力化によって得られた時間を個別指導に振り向けることにより、学生の学習意欲を高め、成果を上げるか。という問題に絞られてくるであろう。
 以上の自作コンテンツのほぼ全ては
http://www.waseda.jp/projects/chinese/ogawat/index.htm
で公開しており、この内容を全面的に改定したものをCALL対応の中級中国語学習書として刊行する予定である。
 2000年度秋学期(2000.10~2000.2)
 春学期は自ら作製したコンテンツにより授業を進めたが、秋学期は逆にネットワーク上のリソースを使ってどれだけ中国語学習を進めることができるか検証するために研究を進めた。春学期に用意したコンテンツは、従来のテープ、プリントをWebに置き換えたにすぎないもので、「閉ざされたシステム」であったといえる。であるとするならば、秋学期は「開かれたシステム」に授業の主眼としたいと考えた。大きな授業運営上の作業として、学生に二つの課題を与えた。
1. ネットワーク上での文字による「コミュニケーション」を目標として、自作掲示板のほか、中国のポータルサイト上にも掲示板を設置し、中国人との直接の交流を図らせた。
2. 中国語のネットワークリソースを利用して、グループごとの「中国仮想旅行計画」を作製し、発表させる。
 この作業を進める上で、次のような教材(仕掛け)を用意した。
 対象:「中国語II総合」「総合中国語」受講生60名
 配布教材
 1.中国語対応掲示板
現在学内のサーバーではcgiの利用が許可されていないため、個人用のWebスペースに中国語の利用できる掲示板を設置した。フリー掲示板スクリプトの配布で知られるkent氏作製になるWeb Forumのcgiを中国語向けに改造したものである。学生たちは、この掲示板上で作文をするほか、収集してきた中国語の文章を貼り付けて保存しておく形で利用する。
 2.中国ポータルサイト上の掲示板の設置
 今回設置したのは捜狐、耶塞城という二つのポータルサイト上であった。いずれも多数の中国人ユーザが参加するものである。学生たちは、与えられた課題に基づき、中国語で書き込みを行い、中国人からのレスポンスがあれば、さらに返答するというものであった。この書き込みは最終的にはWordにペースとした上で教員に提出するが、作文の内容については原則として添削を行わないものとした。「通じなければ返事がこないし、返事があれば通じた証拠だから」という考え方である。
 この試みは、かなり乱暴なものであったとも言えるが、文字とは言え、直接コミュニケーションを図るものであること、見知らぬものからレスポンスが帰ってくる意外性が刺激となって、初期の段階では、かなり成功した。だが、半ば過ぎになって、もう一つの「中国仮想旅行計画」が大きな負担となったこと、さらに中国ポータルサイトのサーバーダウンによるデータの紛失がブレーキとなって、竜頭蛇尾の結果となった。
 3.中国仮想旅行計画
 クラス内のメンバーを6つのグループに分けた上で、それぞれに中国の都市を複数選定させて、どのようなルートをたどって、どんな景勝地を見て回るか、計画を立案させるものである。このために教員側で主だった旅行関係のサイトのリンクを提供し、簡単な利用方法を教えたが、その後は全て学生の自主性に任せた。この課題をこなすには、彼らにとっては厖大とも思える文章を読まねばならないため負担がかなり大きかったようだが、電子辞書を使いながら、学生たちはかなり熱心に取り組んでくれた。結果、冬休みに実際に中国へと出かけるものもおり、異文化理解を図る点では大きな成果が得られたと言える。
 4.基礎文法の復習
 以上の作業では、文法学習が全く欠落してしまうため、文法体型に沿ったドリル課題を3回に1度程度は配布し、提出を義務づけた。春学期は十分に解説の時間が確保できなかったことを踏まえ、解説文書はWeb上でも公開した。
 以上の授業運営からも伺われるように、教員側が提供したものは仕掛けだけであり、コンテンツは殆どネットワークに依存する形を取った。この結果、授業は基本的には学生の作業が中心となり、教員は授業中の個別指導が中心となった。CALLを利用した授業形態としては、むしろ一斉授業を中心としていた春学期よりも秋学期の方が一般的なのだが、教員の側の方がむしろ一斉授業でないと安心できない心理的な障壁が残っていて、なかなか実現できなかったのである。
 選択授業であるため、春、秋ともに授業に出てくれた学生は少数であるため、どちらが学生に評価されたか判断が難しいが、課題の分量さえ考慮すれば、秋学期の授業形態は学生に十分受け入れられると思われる。