表題番号:2000A-115 日付:2002/02/25
研究課題ニコラウス・クザーヌスにおける<楕円の思考>の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 商学部 教授 八巻 和彦
研究成果概要
 クザーヌスは、西洋中世における思想伝統に従って、人間の精神活動を<円>の表象をもってイメージしている。その際には、当然のことながら、円の中心が存在し、そこに精神活動の主体が想定されることになる。
 同時に彼において特徴的なことは、精神(思考)活動の主体としての人間存在が何重にもわたって相対化されていることである。それは、個人としての人間存在が、自らを<極>として位置付ける傾向があることを指摘して、それの相対化を図ること、されには、類としての人間が、人間だけを特別な存在と思いなす傾向があることを指摘して、それの相対化を図ることであり、さらには、人間存在の居住する場としての地球について、人類のような精神的活動を行いうる存在が居住する天体は、地球以外にも無数に存在すると指摘することで、地球中心主義を相対化することである。
 しかし、同時にクザーヌスは、個人としての人間にせよ、類としての人間にせよ、自己を中心と思いなしがちであるとしても、他者もまた自己と同じく<中心>として存在しているのであるから、互いが歩みよって<協和>して存在することが可能であるとも考えている。
 この点を強調的に把握するときに、それぞれが一つの中心をもつ二つの<円>が互いに歩みより、そこに結果的に、二つの中心を有する一つの円的な表象、即ち<楕円>が成立すると考えられる。これを私は<楕円の思考>と名づけてみたいのである。この思考法は、西洋中世に典型的な宇宙像であった<同心円的宇宙像>を脱するものであり、むしろケプラー的な<楕円運動をする天体の集合としての宇宙>という表象に近いものであろう。
 さらに、この<宇宙像>を現代世界に適用するならば、<同心円的勢力圏>を想定して「文明の衝突」を論じる、ハンチントンを筆頭とする、90年代の国際政治における議論を超える視点が確保されると考えられる。この点については、2000年10月に早稲田大学において開催した国際会議で研究発表したが、大方の賛同を得たところである。