表題番号:2000A-114 日付:2002/02/25
研究課題日本企業システムの変容と設備・R&D投資
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 商学部 教授 宮島 英昭
研究成果概要
 本研究の目的は、日本企業システムを構成する幾つかのサブシステムのうち企業金融、コーポレート・ガブァナンスの側面に焦点を合わせ、この変化が、日本企業の実体的な設備投資、及びR&D投資に与えた、あるいは与えつつある影響を検討する点にある。Fazzari,Hubbard and Petersen(1988)以来、これまで多くの実証研究は、資本市場における情報の非対称性を仮定し、投資の内部資金に対する高い感応を内部資金制約と解釈してきた。しかし、この投資の内部資金に対する感応は、経営者のモラルハゾ・ドからも起こりうる。これは、Jensen(1986)の指摘するフリー・キャッシュ・フローの存在が過剰投資を誘発するという経路に他ならない。すなわち、投資機会が乏しいにもかかわらず、有効な経営の規律のメカニズムを欠くために、経営者が潤沢な内部資金をNPVがゼロ以下の投資プロジェクトに向ける場合であり、この場合も透視が内部資金に感応的となる。本研究の分析のポイントは、投資の内部資金に対する感応に注目し、これを内部資金制約によるのか、フリー・キャッシュ・フローに起因するかを幾つかの作業仮説を通じて識別する点にある。
 推計のサンプル企業はR&D支出の多いわが国製造業9部門、繊維、金属、鉄鋼、紙・パルプ、化学・医薬品・一般機械、電気機械、輸送機械、精密機械の各産業に属する大企業353社である。Hadlock(1998)などにならって、このサンプル企業を、上場年度やサンプル期間の期初における成長度等の複数の条件から、あらかじめOld Matured-firms(OM firms:歴史が古く、それゆえ非対称情報に直面する可能性が低く、かつ成長機会の乏しい企業)とYoung Growing firms(YG-firms:歴史が新しく、したがって非対称情報に直面する可能性が高く、かつ成長性に富む企業)に2分し、この両サブ・サンプル間の推計結果の差から「過剰投資」の可能性を識別した。この研究成果は、Corporate Governanace, Relational Banking and R & D: Evidence from Japanese Large Firms in the 1980s and 1990s (with Arikawa, Yasuhiro, Kato, Atsushi), International Journal of Technology Management, 及び Changing Corporate Finance and its Impact on Corporate Strategy After Bubble Period, Usha C. V. Haley and Frand Jurgen Richter (eds), Asian Post Crisis Management: Corporate and Government Starategies for Sustainable Competitive Advantage, Macmillan/St. Martin Pressに掲載予定である。