表題番号:2000A-088 日付:2005/03/15
研究課題多雪地の林床生常緑低木5種の越冬戦略に関する生理生態学的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育学部 教授 伊野 良夫
研究成果概要
 本州日本海側の丘陵・山地は12月から3月まで2mを越える雪に覆われる。この地域のフナ林床に生育する常緑低木は4カ月以上、暗黒、氷点の環境下におかれる。雪に覆われることの少ない地域に生育する種に比べ物質生産期間は約2/3となり、夏季の効率的な物質生産が期待される。夏緑林では葉が展開しだしてから、林床には光斑(木漏れ日)が見られるようになる。光斑の光強度はまわりの数十倍になることもあり、光合成に対する効果は大きいことが知られている。新潟県松代町のブナ林床で樹冠が閉鎖する前(5月)、閉鎖後(7月)、落葉後(11月)に光斑の光強度と持続時間を測定した。林床に生育する3種の常緑低木ヒメアオキ、ユキツバキ、エゾユズリハの葉が光斑に入ると、光合成速度、葉内のCO2濃度、CO2コンダクタンスがどのように変化するか携帯用光合成測定装置で測定した。また、3種のシュートを毎月持ち帰り、ポテンシャルの光合成能力を酸素放出量から求め、葉に実験的な光斑を照射して光合成速度やCO2コンダクタンスの応答も測定した。5月に光斑は高頻度で林床に到達し、その合計持続時間は日射時間の30%になった。この時期、ヒメアオキ、エゾユズリハは高い光合成能力を示し、長時間の光斑で大きな物質生産を行っていると推測された。一方、ユキツバキの光合成能力は低く、光合成系が積雪の影響を受けていると推測された。このダメージは夏季までには回復し、夏季にユキツバキが光斑にすみやかに反応したのに対し、他2種は短時間の光斑では光合成速度を高めることはできなかった。他2種より著しく高いユキツバキのCO2コンダクタンスはユキツバキが林床で気孔を大きく開いていることを推測させた。他2種は背景の光強度では気孔は全開していなくて、光斑に入ってから気孔を開き出すので応答が遅れると考えられた。同じ環境に生育しながら、種によって光環境に対する適応様式が異なることは興味ある現象と考えられる。