表題番号:2000A-087 日付:2002/02/25
研究課題非線形経済モデルの挙動にノイズが及ぼす影響
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育学部 教授 稲葉 敏夫
研究成果概要
 5次元非線形差分方程式で記述される、開放経済系2国モデルの動学的性質を調べた。次元が高いため解析的取り扱いは困難であるので、数値計算によって挙動を分析した。2国はともにカルドアタイプで記述されるものと想定し、財市場に不均衡の調整過程を導入した。2国は財・サービスの輸出入および資本の移動を通じて相互依存の関係にある。簡単化のために固定相場制の場合を扱った。2国間に貿易も資本移動も共にない場合、2国の国民所得はそれぞれの均衡点に単調に収束する。しかし貿易および資本移動を通じて関連しあう場合、多様な挙動が作り出されることが示された。2国が同一の経済構造を有するときは2国の景気循環は完全に同期し、しかも周期的な動きをする。ところが一方の国の所得調整速度を若干高めると2国は全く逆の景気の動きをする、つまり一方の国が好景気のとき他国は不景気の状態にある。所得調整速度をさらに高めると再び2国の景気の動きは同期する。所得調整速度を増加させるに従い、2国の景気の動きにはタイムラグが現れ、景気循環の周期も大きくなる。やがて周期的な動きが崩れカオス的な振る舞いが現れる。
 ノイズが2国の景気循環に及ぼす影響を調べるために、2国間の資本移動の容易さを示すパラメータに摂動(確率的ノイズ)を付加した。ノイズがなければ同期を示していた2国の景気状態は逆転し、一方が好景気のとき他方は不景気となる。また高い周期でタイムラグを伴いながら変動していた2国の景気は僅かなノイズによって不規則な景気循環を示すようになる。以上のように、パラメータに摂動が加わることによって2国の経済変動の関係が大幅に変化する、不安定性があることが示された。