表題番号:2000A-067 日付:2002/02/25
研究課題六・七世紀中国仏教絵画における西方様式の摂取に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学部 助教授 肥田 路美
研究成果概要
 6・7世紀の中国仏教美術は、既に確立された中国固有の様式と一定の権威をもって影響力を有した外来の西方様式との競合を特徴とし、複雑な様態を呈する。本研究は、当該世紀に制作された作品に認められる定型的表現の成立に、西方起源の様式・図像がいかに関わったかを具体的事例を以って検証することを目指したものであるが、主なる考察の対象を、敦煌莫高窟の壁画と、中国および日本で出土した磚仏・銅板仏などの浮彫り作品に設定した。特に後者を取上げたのは、この時期の絵画作例が西境の敦煌壁画にほぼ限られるという欠に鑑み、中央での状況を伝える資料としての価値に注目したものである。ことに近年奈良県山田寺址から出土した銅板五尊像は、唐朝中央からの舶載品と推定できる上、小画面ながら複雑で精緻な図像構成を見せる。また、西安市内外より出土した約三十余種の磚仏は、当該期の仏教図像の最もシンプルな定型を提示するもので、いずれも絵画作品としての仏説法図や浄土変相図に準ずるものとしてよい。これらの実作例によれば、偏袒右肩・触地印坐仏、通肩・説法印坐仏という新たな如来像形式に加え、この時期に西方より摂取された要素には、脇侍菩薩に見られるトリバンガの体勢、斜め掛けの瓔珞、持物としての大地より伸びる蓮華、マンゴー樹葉形樹蓋、同根連枝の蓮華座、連弧・怪獣装飾付き背屏、小型層塔などのモティーフがあり、いずれもグプタ朝美術に淵源を求めることができる。また、浅い半肉彫りでありながら透視遠近法に近い構図法を採用するなど、三次元的立体表現を実現するための手法が随所に認められる。この時期の西方伝来の表現技法には、敦煌画や法隆寺金堂壁画に観察される暈染彩色があるが、これは動勢や生命感の横溢した形態と不可分な賦彩法であり、したがって文献上「凹凸画法」が確認される6世紀前半の梁代にはすでに、上記の如き所謂初唐様式が萌芽していた蓋然性が高い。