表題番号:2000A-064 日付:2002/02/25
研究課題「ニヒリズムの歴史」の理解をめぐるニーチェとハイデガーの思想的対立についての研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学部 助教授 鹿島 徹
研究成果概要
 標記の問題に関して具体的な作業を進めるに当たっては、ハイデガーのニーチェ評価に絞って検討を行うこととした。ハイデガーはヨーロッパの歴史動向を「ニヒリズム」と捉えるニーチェの議論に強い思想的インパクトを受けながら、最終的にはニーチェの哲学を「形而上学の完成」であり「ニヒリズムの極致」であると捉えるに至る。その過程を、1930年代のハイデガーによるニーチェへの言及を時代順に検討することを通じて再構成することができた。彼のニーチェ評価の転換点は1939年フライブルク大学夏学期講義に見てとることができ、その転換を促したのは「近代」という問題であることが確認できる。すなわちハイデガーは、当時ドイツに施行された「総動員体制」にデカルトに始まる「近代」の完成形態を見出し、それと思想的に対決する中で、ニーチェの「力への意志」の哲学を、この近代の完成の時代を形而上学的に基礎づけるものと位置づけることになったのである。この講義の直前に執筆された『哲学への寄与』においては、ニーチェに対する位置づけはなお流動的で、ハイデガー自身の立場への「過渡」として肯定的に評価する面も見られるが、この講義を経て1940年代前半に執筆された草稿「ニヒリズムの本質」においては、「最上諸価値の無価値化」をニヒリズムと捉えるニーチェの立場を最終的に「本来的ニヒリズム」と規定するに至っている。「ニヒリズムの歴史」をめぐるハイデガーによるニーチェ評価のこのような経年変化の総体的な把握が、本研究の直接の成果である。
 その成果は具体的には、以下に挙げる諸論考にも部分的に取り入れたが、それだけでなく、上記草稿を含む Martin Heidegger Gesamtausgabe 第67巻 "Metaphysik und Nihilismus" の翻訳作業に活かしてゆくことにしたい。その翻訳は日本語版「ハイデッガー全集」(創文社)第67巻として刊行されることになっている。