表題番号:2000A-062 日付:2003/03/03
研究課題院政期における日本紀の享受
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学部 教授 吉原 浩人
研究成果概要
 平安期における日本紀享受については、その実態が今ひとつ不明確なこともあって、従来等閑視される傾向にあった。日本紀講書は康保2年(965)を最後に断絶し、中原家など特定の家系を除いて、文章道出身の知識人でさえ、日本紀は容易に手に取ることができなかった。これが再び歴史の表面に現れるのは、院政期の鴻儒大江匡房の言説を通じてであった。これまで私は、大江匡房の全体像解明を志してきたが、ひとり大江匡房にとどまらず平安朝の思想全体を見渡した上で、知識階層の日本紀享受を見直す必要があり、本課題の研究を進めることになった。
 本年度は、その第一段階として、院政期を中心に日本紀享受の諸相を探ることを目指した。従来から進めている大江匡房の作品の注釈研究を深化させ、同時に『長寛勘文』について、注釈的研究を進めた。また、京都・九州方面に諸文庫の写本撮影と現地調査を兼ねて出張し、文献・資料を蒐集した。
 本課題の概説として位置づけられる論文として、1999年に「院政期の日本紀享受」(『国文学 解釈と鑑賞』64-3)を草したが、今後さらに本年度の成果を生かした論文を公刊する予定である。また、同学の志を募って、中世日本紀研究の論文集を刊行することも計画中である。