表題番号:2000A-060 日付:2002/02/25
研究課題「ドキュマン」誌(1929‐30年)に見る民族誌学的視線の生成
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学部 教授 千葉 文夫
研究成果概要
 本特定課題研究の出発点にあたって設定した問の軸は以下の三点にある。
1)「ドキュマン」誌を舞台とする民族誌学的な知の形成を問う意味はどこにあるのか。
2)「ドキュマン」誌において「プリミティフ」と「モダン」の諸問題がどのようなかたちであらわれるのか。
3)いわゆる「複製技術時代」の普遍化と上記の問題の連関はどこに見出されるのか。
 2000年4月ルーヴル美術館の一角にアフリカ、オセアニア、アメリカなどを産地とするマスクや像など、いわゆる今日のフランスでの呼称にしたがうならば「アール・プルミエ」と呼ばれるオブジェの数々を展示する部屋が設けられ、これをめぐるさまざまな議論が紹介された。1984年ニューヨーク近代美術館で「20世紀美術におけるプリミティヴィズム」展が開催されて以来の大きな事件であったといえる。この出来事はまさに上記の問題の追求とも密接に関係する内容を孕んでいる。この出来事は、「プリミティフ」の問題が、単に歴史的な問題というばかりではなく、今日の文化表象の問題としてなおもありつづけていることを示している。その点を見据えつつ、本年度は「モダン」と「プリミティフ」をめぐる諸観念が相互連関的に形成されることを明らかにするための予備作業を中心としておこなった。アポリネールからレヴィ=ストロースにいたるまで、非西欧的世界にみずからの出自をもつオブジェの芸術性を認めつつ、新たにこれを展示する美術館を設立すべきだとする論者の主張をあとづけ、さらにはバタイユおよびレリスのテクストについての検討を中心として、そのなかで「ドキュマン」誌がしめる位置を確認する作業にとりかかった。本年度の成果としてはとりあえず、この問題との連関で別記のようにレリス研究の論文をまとめることができた。現在レリスの著作における非西欧的世界に出自をもつオブジェが提起する問題、さらには同時代の、つまり「モダン」の側にある芸術家、とくにジャコメッティのオブジェが提起する問題について考えをまとめつつあり、この主題を論じる研究論文を準備しているところである。また下記の通り、「ドキュマン」誌における写真の用法に検討を加える口頭発表を行なった。