表題番号:2000A-057 日付:2014/04/13
研究課題室町時代の謡本の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学部 教授 竹本 幹夫
研究成果概要
 本研究は、諸方に現存する室町時代の謡本を収集し、系統的に分類することを目指したものであり、同時に申請した科学研究費補助金「室町時代の能に関する総合的研究」を補完する意味を持つ。研究内容としては、室町時代成立の謡本データベースをほぼ完成し、それに従って重要な謡本の幾つかを収集した。市立米沢図書館興譲館文庫の金剛流謡本や、法政大学能楽研究所の謡本の内、特殊文庫所蔵本以外の分は、本研究によって撮影した。また都内の大学や公共機関所蔵の謡本についても所在調査を行った。当初予定していた明治大学図書館蔵擬車屋本や、日本大学図書館蔵福王神右衛門奥書謡本については、調査できなかった。東北歴史資料館の春藤流謡本や演劇博物館安田文庫の春藤流謡本など、従来あまり顧みられることの少なかったワキ方謡本については、福王流系の番外謡本とともに、調査を行った。
 謡本は、世阿弥自筆の能本とはことなり、能の台本と言うよりは、謡教授用のテキストとして流布したものであるが、研究材料としては能の台本に準じたものとして扱われている。しかしながら、世阿弥の自筆能本各曲と重複する諸曲について、現存謡本を比較校合してみると、世阿弥本と現存諸本との相違は、現存諸本相互の異同を遥かに越えるものがあり、ここから、現存諸本の校合によって世阿弥時代の能本の姿を厳密に復元することが不可能であることがわかる。しかしながらまた、現存する室町時代成立の五〇〇曲弱の作品群についてみると、その幾つかには、作風において、明らかに世阿弥のそれとは系統をことにするものが存在する。それらの中には、世阿弥時代以前にまで溯る作品も含まれている可能性がある。そうした作品を抽出する作業を網羅的に行ったが、とくに今年度においては、『平家物語』をはじめとする軍記物に取材した能を中心に調査し、武士の登場する現在能の中に、きわめて古い作風を備えるものが少なくないことを想定した。これについてはさらに考察を進め、室町時代後期に発生したとされる非世阿弥的作風の根底に、実はこれらの作風があったのではないか、との想定を立証したいと考えている。