表題番号:2000A-056 日付:2002/02/25
研究課題ルネ・クレール再考―1930年代におけるトーキー映画へのアプローチ
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学部 教授 武田 潔
研究成果概要
 本研究は私が数年来進めている「ルネ・クレール論の変遷」に関する研究の一環をなすものである。クレールはかつてフランスを代表する映画監督として世界的な名声を博していたが、第二次大戦後、特にヌーヴェル・ヴァーグと称される新しい世代の映画人たちが登場してからは、むしろ古い権威の象徴として攻撃されることも多かった。しかし、その作品と評論から窺われる映画観は、映画の“自己反省作用”(映画を通じて映画自体についての省察を促す作用)に対する先鋭な意識に貫かれており、その意味で彼の業績は1960年代以降のいわゆる「現代映画」の展開と深い繋がりを有している。
 そうした観点のもとに、私はこれまでフランスの映画批評におけるクレールの位置づけの変遷を辿り、そこに見られる言説の位相の変化を明らかにしてきたが、今回は過去の調査研究で十分に検討することのできなかった、1930年代の彼の活動と、それに関する同時代の批評を取り上げた。今回もまた、これまでと同様、夏季休暇を利用してパリに短期間滞在し、アルスナル図書館(フランス国立図書館芸能部門)に収蔵されている「ルネ・クレール資料」を中心に調査・収集を行った。その結果、クレールが当初トーキーの導入には懐疑的でありつつも、この新たな技法に大きな関心を寄せていたこと、また当時の批評の論調が、サイレント期の多彩で先鋭な模索から、『巴里の屋根の下』や『巴里祭』に代表されるような、いわゆるパリの下町情緒を活写するトーキー期の作風へと、その評価の軸を移していったことなどを裏付ける多数の資料を収集することができた。
 この研究の成果については、従来のように論文の形で発表するか、あるいは過去の研究成果(論文4編)と、2001年度に申請している特定課題研究(主にヌーヴェル・ヴァーグ期以降の、最晩年におけるクレールの評価を検討する予定)の成果と合わせ、全体を増補して単行本の形にまとめるか、現在検討中である。