表題番号:2000A-052 日付:2002/02/25
研究課題芥川龍之介作品研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学部 教授 佐々木 雅發
研究成果概要
 計画書では切支丹物から「おぎん」、自伝的作品から「少年」を主に取りあげる旨記したが、今回は「少年」論のみ完成しえた。ただし、そこでは自伝的作品の性格の中心として、「想起」とか「過去」という問題を考察する旨記したが、その点は十分の成果をあげられたと信じている。すなわち「想い出す」というのはその時の「知覚」がよみがえるというのではなく、「想起する」、つまり「言葉」によって、構成することであり、つまりは今現在の「言葉の制作」「物語化」であるという観点から、芥川の自伝的作品の中心である「少年」を論じたものである。これは今後、「大導寺信輔の半生」や「歯車」などの作品の分析にも応用してゆくつもりである。また以上のことは計画書にも記したように『大森荘蔵著作集』全十巻(岩波書店)の繙読を通して得られたものであることを注記しなければならない。「言葉」ということについて、言語学者のどのような理論よりも感銘をうけた。なおこの観点から、直接芥川には関係しないが、正宗白鳥「何処へ」や、国木田独歩「武蔵野」についての考察を行った。ことに国木田独歩は芥川が深く敬愛した作家で、その作品の中に(「少年」もそうだが)、独歩の思考なり語彙が散見され、参考となったことを付け加えておく。