表題番号:2000A-047 日付:2002/03/13
研究課題初期中世ポーランドの国家・社会構造―公の権利体制―の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学部 教授 井内 敏夫
研究成果概要
 本年度は農民に課される「公の権利」の諸負担のうち、輸送・通信義務(プシェヴド、騎士のプシェヴド、ポヴス、ポドヴォダ)についてその研究史を中心に調べを行なった。ピエコシンスキは、公の荷物をリレー方式で運ぶ運送システムを支える奉仕義務としてプシェヴドを捉え、荷車や馬、ならびに護衛人と案内人を提供する義務と定義した。一方バルゼルは、荷物の輸送のみに限定し、その上で、公だけでなく公の役人や公の奉公人の荷も対象とした。これに対し、ルソツキは概ねピエコシンスキに戻り、二つの形態を抽出した。巡回する公の一行の案内と公やその荷駄の運送が原初的な形態であり、公の必要とする「一定の」品目をリレー方式で輸送する義務をより一般的な第二の形態と考えた。他方、ブチェクはリレー方式による公の物品の運送システムを認めた上で、荷車を引く牽引力(雄牛か馬)の提供をプシェヴドとする。荷車は公のものであり、そうでなければ、輸送ルート上のもっとも近い村で牽引動物の交代だけでなく、荷の積み替えまでも行う必要が生じるからである。ブチェクによれば、公の天幕係とビーヴァー捕獲人もプシェヴドを利用する権利を確実に持っていた。以下は、ブチェクの見解のみを記す。騎士のプシェヴドは、上記のいわば「農民のプシェヴド」が軽減された形態であり、騎士やその騎士の村の農民たちが負い、高価な物品や囚人となった騎士などの特定の品目が輸送される際に利用された。12世紀末までにはこの騎士のプシェヴドは形成されており、13世紀になると、教会や修道院領の村にも適用されるようになる。ポヴスは、ルソツキがプシェヴドの原初形態としたものにほぼ相当し、巡回する公の一行の荷駄隊に対し、荷車と牽引動物を提供する義務であり、時に護衛人も要求される。他方、ポドヴォダは公の使節や急使、あるいは敵軍の侵入を知らせる者たちに鞍付きの馬を貸与する義務であった。