表題番号:2000A-032 日付:2003/02/10
研究課題フランス・モダニズム研究――ダダ・シュルレアリスムの周辺
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学部 教授 谷 昌親
研究成果概要
 まず、ダダの先駆者と見なされるレーモン・ルーセルについて、彼の『新アフリカの印象』を、従来のように形式の点からばかりでなく、むしろテーマの面から、たとえば彼のおこなった旅行との関係などから見ることで、時代や環境の影響を探る可能性が開けてきた。また、やはりダダの先駆者とされるアルチュール・クラヴァンについては、そのスペイン時代、アメリカ時代を調べた結果、ようやく彼の活動の全貌が明らかになり、同時に、1910年代後半にパリ、バルセロナ、ニューヨークの各地で展開されたモダニズム運動相互の関係も明確になってきたため、近いうちに書物のかたちでまとめる予定。
 以上は、モダニズムの初期の段階を扱った研究であるが、ダダ・シュルレアリスムの時期については、ベンヤミンとシュルレアリスム、そして写真家アジェの関係に注目することで、日常生活において無用なものとして棄てられた廃物を新たな意味の網目のなかに拾いあげるという共通の身振りが浮上してきた。それはモダニズムの問題を横断するテーマの糸口といえよう。また同時に、シュルレアリストのひとりであり、モダニズムにこだわりつづけた作家ミシェル・レリスについても、同じ問題意識から、些細な細部の重視が独特のリアリズムを生み出している点を明らかにできたと考えている。
 ところで、そうした廃物や細部といった実用性から零れ落ちる要素への執着は、既存の価値体系とのずれという意味では、エキゾティシズムや他者性の問題ともかかわってくる。実際、シュルレアリスムと民族学のあいだには通底するものがあるはずである。したがって、セガレンあたりから、シュルレアリスムを経て、現在のクレオールに至る問題系が呈示されたわけである。そして、そのエキゾティシズムの問題がモダニズムと取り結ぶ関係にもある程度の見通しが開けつつあり、今後はその点をさらに追及していかねばならない。