表題番号:2000A-031 日付:2002/02/25
研究課題家事調停制度の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学部 教授 棚村 政行
研究成果概要
 本調査研究により、わが国における家事調停に対するいくつかの具体的な制度改革の方向性が明らかになった。
 まず第1に、日本でも、裁判所付属の公的調停だけでなく、非権力的な民間のボランティア組織での調停サービスを、裁判所、自治体、各弁護士会、国などが育成していくように必要な連携と財政支援など早急に行なうべきである。
 第2に、わが国の調停委員は、調停事件の多様化、複雑化、解決の困難化、国際化などの現代的傾向に伴い、多様かつ重要な役割を調停手続で求められている。しかし、一九九八年一○月現在で、家事調停委員数は、一万一九九二人、参与員は六○三八人にすぎない。また、家事調停委員の年齢構成は六○歳以上が六三・二%を占めかなり高齢化していた。そして、職業別構成をみても、弁護士等の専門職は二三・七%にすぎず、無職、会社役員等が七六・三%を占めていた。調停委員、参与員の選考基準、選考方法、専門性をめぐる資格要件や資格認定制度など設けるべき時期にきているのではなかろうか。
 第3に、アメリカのように、日本でも、家事事件処理システムの改善すべき課題を取出し、サービスの充実を図っていくためにも、追跡調査や自己点検のシステムを導入し、利用者の側にたったサービスの展開に心がけなければならない。
 第4に、アメリカでは、離婚調停、監護調停などにあたり、調停手続がどういう手続か、どのような目的をもってどのように運営されるべきかということにつき細かいルール作りとマニュアル化が進んでいる。日本の家事調停においても、各調停事件ごとの調停運営についてのマニュアルを作成して、調停委員や当事者にとって一つの重要な指針や目安として大いに活用されるべきである。
 第5に、アメリカでは、1998年には、1516のカウンティーにまで父母教育プログラムは広がり、アリゾナ、コネティカット、ディラウェア、ハワイ、アイオワなどの八州では全州レベルで父母教育プログラムへの参加を義務づけるに至っていた。わが国の家事調停全般においても、さらに一層、当事者の主体的な解決能力や自己決定的能力を有効に引き出すために、各種の利用者教育プログラムや適切で時機を得た情報提供活動に力を入れて行かなければならない。
 家事調停は1999年で約11万件の新受事件があり、史上最高を記録した。家事調停制度は、わが国の家事事件処理できわめて重要な役割を果たしており、より国民に親しみ易くアクセスし易い制度となるようにさらなる改革が必要であろう。