表題番号:2000A-029 日付:2002/02/25
研究課題回復的司法における被害者の地位
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学部 教授 高橋 則夫
研究成果概要
 回復的司法とは、restorative justiceの翻訳であるが、現在では、「修復的司法」という訳語が一般に使用されているので、ここでも修復的司法とする。今年度は、とりわけ修復的司法の理論について研究を行った。修復的司法は、犯罪を被害者およびコミュニティに対する害として理解するので、刑法における「犯罪は法益侵害である」という理解といかなる関係にあるのかが問題となる。私は、この法益侵害と被害者侵害という2つの側面を、前者は、加害者の犯罪成立の存否にとって不可欠なものであり、それを前提としつつ、後者の側面を付加するという折衷的な考え方を提唱した。そして、被害者は、いつから被害者となるのかという点につき、法益の危険・侵害が客観的に生じた段階で被害者となるという結論に達した。次に、被害者支援の在り方という基本的問題にも検討を加えた。とりわけ、被害者の経済的支援について、加害者からの損害回復と国家による損害回復の2つに区分し、前者につき、損害回復モデル、刑法的モデル、刑事手続内モデル、刑事手続関連モデル、民事手続支援モデルという5つのモデルを提示して分析を行い、後者につき、犯罪被害者支給制度の問題点を指摘した。その結果、加害者による損害回復と国家による損害回復とを統合するような「犯罪被害者賠償法」制定が必要であることを主張した。さらに、2000年5月に成立した「犯罪被害者保護関連二法」についても検討を加え、とりわけ、この立法の残された課題である「没収及び追徴に関する制度の利用」について、その意義と問題点を検討し、被害者の経済的支援のあるべき姿を提示した。修復的司法については、実務家レベルでも関心が高まっており、日弁連のシンポジウムにも出席したほか、雑誌「現代刑事法」にも修復的司法の動向を紹介する連載を開始した。