表題番号:2000A-015 日付:2003/12/15
研究課題現代政治理論における「政治的リベラリズム」の観念―J・ロールズの理論を中心に
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学部 助手 谷澤 正嗣
研究成果概要
 本研究は、J・ロールズ、C・ラーモア、B・アッカマン、M・ヌスバウムらによって提唱されている「政治的リベラリズム」の立場を、その核心にある「理性にかなった多元性の事実」をめぐる哲学的洞察のみならず、この洞察から生じるさまざまな政治的帰結に視野を広げながら、リベラリズムに対する数々の対抗イデオロギーと比較して論じようとするものである。政治的リベラリズムのもたらす憲法上の帰結をめぐる成果の一部は、早稲田政治学会第一回研究会(2000年5月26日)において、「現代リベラリズムにおけるconstitutional democracy―radical democracyとの対比において」と題して報告した。この報告は、ロールズらの理論における、立憲主義と民主主義の関連を明らかにするために、まずデモクラシーによる政治権力の行使に正統性を認めるための条件としてのリベラルな憲法の位置づけ(ロールズ)に着目し、ついで正統性についてのこの理解の根底をなすのは「人格に対する平等な尊重」(ラーモア)という、政治的リベラリズムの核心となる道徳原理にほかならないとする見方を紹介した。さらに制度論に目を向け、正統性を満たしたデモクラシーを可能にする前提条件ないし「プレコミットメント」(S・ホームズ)として機能するために憲法が備えていなければならない条項を列挙した。これらの条項が多数派の権力行使に制限を課すかぎり、リベラルな立憲主義は民主主義と対立すると指摘される。これに対して報告は、憲法それ自体が人民の主権にもとづく「憲法政治」の所産である以上、立憲主義と民主主義は対立しないとする「二元的デモクラシー」(アッカマン)の理論を検討した。続いて報告はこうしたリベラルな立憲主義的デモクラシーと、C・ムフやS・ウォリンらの提唱するよりラディカルなデモクラシーとの対比を試みた。その後の研究成果をも踏まえて、論文「現代リベラリズムにおける立憲主義とデモクラシー--政治の可能性をめぐる一試論」、飯島昇藏、川岸令和編『憲法と政治思想の対話』(新評論、2002年)を発表した。