表題番号:2000A-013 日付:2002/02/25
研究課題『ディヴァガシオン』の政治空間-サンボリスムの詩人たちとドレフュス事件
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学部 助教授 岡山 茂
研究成果概要
 マラルメの散文集『ディヴァガシオン』を一つの完結した表象空間とみなし、その構造を探るために登場人物たちの空間移動をテーマティックに追いかけると、彼らがどうしても入り込めない処女なる三つのトポス(「地平線」、「舞台」、「白い紙」)が見えてくる。それらのトポスは、古典主義時代の表象空間においては、詩人のイマジネーションによって結ばれており、19世紀半ばに成立した「ジャーナリズム」空間においては、それぞれ独立してその空間の外にあり、マラルメの構想する未来の「書物」においては、互いに重なり合って濃密な場を形成している。2000年度の研究では、そのように描かれる『ディヴァガシオン』の表象空間を、ドレフュス事件による社会的・政治的・世代的葛藤が渦巻く19世紀末のパリに置き直して、その自律性を外側から確認してみる作業を始めた。サンボリストたちのドレフュス事件(1894-1906)のときのアンガジュマンが、『ディヴァガシオン』(1897)のなかにどのような影を落としているか、そしてこのマラルメの散文集が、サンボリストたちのドレフュス事件以後の未来をどれくらい正確に見通しているかを、自分の目で確かめてみたいと思ったのである。そのためには、各々のサンボリストについてのモノグラフィーや、その書誌に挙げられている資料に当たり、さらに当時の新聞や雑誌を読んでみなければならない。とりわけ彼らがドレフュス派であったか反ドレフュス派であったか(そのいずれであることも拒む場合は反ドレフュスということになる)は基本的な情報となるので、慎重に調べねばならない。フランス国立図書館でそれらのカタログを作り、当座読むべき資料をコピーし、また古書店をめぐって当時の書物を探し、さらに当時を扱う歴史文献学や歴史社会学の文献を求めた。これはサンボリスムの文学史をマラルメとドレフュス事件をキーにして読み直すというプロジェクトであり、2000年度はその端緒についたというぐらいのところにすぎない。しかし2002年の春までにはその全体のプランを序論というかたちで書き上げたいと考えている。