表題番号:1999B-035 日付:2003/04/23
研究課題重イオン照射高分子固体内の不均一ミクロ構造変化と物性変化の相関
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学総合研究センター 教授 濱 義昌
(連携研究者) 理工学部 教授 大木 義路
(連携研究者) 理工学総合研究センター 教授 鷲尾 方一
研究成果概要
 本研究においては重イオンビームを照射したポリエチレン固体内における構造変化の長期間にわたる構造変化を顕微FT-IRを用いて解明するとともに、構造変化と力学的特性の相関性について検討した。ポリエチレンの劣化の主な原因は何らかの原因で生成した遊離基と酸素分子との反応によって誘起されるカルボニルであると考えられている。重イオンを空気中で照射した場合、照射直後においては試料表面には多量のカルボニル基が生成するが、内部においてはほとんど生成していない。これは表面に生成した遊離基は空気と接触しているため直ちに酸化反応が可能となるが、内部においては酸素の拡散が抑制されているために酸化の前に遊離基同士の反応により架橋が生じてしまうためであると結論できる。ところが、長期間にわたって構造変化を追跡したところ、高密度ポリエチレン(HDPE)では内部においてカルボニル基が長期間にわたって徐々に増加していくことが判明した。この現象は低密度ポリエチレン(LDPE)では起こらない。この違いを次のように推測した。この内部における反応は遊離基同士の反応と酸素の拡散の速度との律速となるはずである。HDPEに生成するアリルラジカルは室温、真空中では安定であるが、LDPEに生成するそれは室温では不安定である。したがって、空気中で照射してもLDPE中のアリルラジカルは酸素との反応よりも架橋反応が主となる。いっぽう、HDPEではその一部は酸化反応が可能となる。しかし、照射直後においてはカルボニル基が見いだせない。これは内部における初期酸化生成物はカルボニル基を含まない過酸化物すなわちhydroperoxideであり、これがその後長期間にわたる熱的反応によってカルボニル基を含む酸化物に変化していくと結論した。これらのカルボニル基の分布はイオンのエネルギー付与の分布とほぼ対応していることも見いだした。
 いっぽう、重イオン照射したポリエチレンのイオンの進路に沿っての力学的特性を測定した。破断延びおよび破断強度ともにイオンの飛程近傍において大きな変化を示した。これは架橋度の分布測定の結果と良い一致を示した。このような力学的特性の微視的な測定を行ったのは本研究が最初である。