表題番号:1999B-029 日付:2002/02/25
研究課題新規高輝度X線発生のための逆コンプトン散乱の高度化に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学総合研究センター 教授 鷲尾 方一
(連携研究者) 理工学総合研究センター 教授 濱 義昌
(連携研究者) 理工学総合研究センター 客員講師 柏木 茂
研究成果概要
 物質内部における超高速の物理化学反応の解明や、生体等のミクロなレベルで生きた状態での分析を行うためには、極めて特殊なX線が必要となる。即ち超高速の物理化学現象を直接観測するためには、超短パルスで高輝度なX線が、また生体の分析に関しては数100eVの領域における極めて質の良いX線が必要となる。
 本研究ではこのような特殊なX線を極めて質の高い電子線パルスと高輝度レーザーとの間の逆コンプトン散乱によって発生させるシステムについての基礎的な検討を行ったものである。具体的には、現在開発を進めているレーザーフォトカソードRF電子銃から得られる電子線について系統的な研究を行い、達成可能な電子ビームの特性についての基礎データを得ることができた。また同時に衝突用のレーザー光についても単独運転時の出力及び時間安定性、更にRF場における安定性評価も実施し、本レーザー装置が我々の目的とするX線発生に利用できるかどうかの評価を行った。その結果、電子ビームについては、数nCの電荷量を持つパルス幅10psの電子パルスをエミッタンスを大きく損なうことなく、5MeVまで加速可能であることを確認した。またレーザー装置の出力安定度に関しては、±0.5以内の精度を得ることができ、更に時間ジッターについても0.29psという極めて安定な動作を確認した。その一方で大電力RF場においては、出力の不安定さが確認され、相応の電磁波シールドが必要となる事を確認した。
 これらの装置を用いて発生できる短パルスX線について、計算機によるシミュレーションを実施し、以下のような性能を達成できる見込みを得た。即ち、1047nmの赤外レーザー光と5MeV電子の正面衝突により最大エネルギーとして480eV、衝突角度を変更する事で、窒素のk吸収端、及び炭素のk吸収端を挟むほぼ単色のX線を発生できる事を確認した。これにより、今後装置の実用化を通じ多岐にわたる物理現象の解明や生体反応の解明、更に超高速の動画撮影などへの応用が可能となり、物性及び物質科学、物理化学等の分野への大きな貢献が期待できる状況となった。