表題番号:1999A-905 日付:2004/11/24
研究課題文章の聴解による要約文の表現類型の分析
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 日本語研究教育センター 教授 佐久間 まゆみ
研究成果概要
 要約文とは、元の文章(「原文」)を読解した後、原文の正確な内容をより少ない言語量で再生するものであるが、日本語教育の分野では、聴解した内容の確認のために要約文が課せられることもある。大学の講義のノートを取る練習なども、広い意味での要約にかかわる技能であるが、それを評価するための方法に関しては、まだ、あまり解明されているとはいえない。
 本研究では、日本語母語話者の4集団に、原文の朗読テープを2回聞かせた後、約4分の1の字数で要点を書かせる「聴解要約文」の調査を実施し、すでに調査済みで分析してある「読解要約文」のデータと比較し、その異同を明らかにすることを目的としている。
 結論が結尾部に書かれている「尾括型」の文章型の「天声人語」の要約文は、結論や主な論点などの基本構造は、両者に共通する原文の表現の残存傾向が認められたものの、具体例については、聴解要約文の方に有意に多く残存する傾向が認められた。また、要約筆記者の集団と比べ、大学生のほうが読解要約文と類似する傾向があった。要約筆記者の2集団間にも、異なる原文の残存傾向があったが、体言止めや言い換えなどに共通する表現特性もあった。
 原文の文章型は、はじめ・なか・おわりという3大段からなるが、要約文の各文に原文の段を越えた内容を含めて再構成するものが、読解要約文よりも聴解要約文のほうが少なかった。これは、いずれの場合も、原文の中心内容を把握することに関しては大差がなく、また、それを可能にする表現上の指標が原文中に存することを意味している。むしろ、原文の情報の記憶に頼らざるを得ない聴解要約者のほうが、原文の要点把握に対して、より敏感にならざるを得ないのかもしれない。これは、原文のみならず要約文自体の文章型を分類することの可能性を示唆するものである。
 聴解要約文の原文残存率を通して、読解要約文の場合と同様、原文の構造と機能から理論的に分析された「尾括型」という文章型の存在が実証されたことになる。