表題番号:1999A-884 日付:2002/04/18
研究課題地方分権と財政調整制度の役割 シミュレーション分析
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 社会科学部 教授 林 正寿
研究成果概要
 地方分権の必要性が叫ばれ、ある程度の制度改正が実施されているが、抜本的な制度改革とはほど遠い。問題の一つは現行制度の地方交付税制度による地方公共団体間の財源調整が行き過ぎであり、地方公共団体の自立自助努力にたいしてモーラルハザード効果を与えているのではないかということである。また、地方公共団体のおかれた様々の条件を反映すればするほど制度は複雑化し、一般国民はおろか専門化である地方公務員や研究者にとっても十分に理解できないほどに精緻化されてきている。そこで選択は現行制度を大幅に簡素化し、人口により、または人口と面積によりもっと大雑把に財源を再配分しようということが考えられる。
 この観点から制度改革を構想する場合に、その制度改革により各地方公共団体にどのような影響が生ずるかが重要な関心事となる。類似の問題点は事業税の外形課税化にもいえるわけであり、負担の増加する納税者は強く抵抗する。今後もさらに地方分権化との関係において財政調整制度のあり方を研究していくつもりであるが、昨年度は3200以上の市町村の個表データを利用してさまざまの代替的配分方法各地方公共団体に対してどのような地方交付税額に変化を与えるかを詳細にシミュレーション分析した。前提はどの配分方法をとっても地方交付税の総額は同額とする異なる税制の比較に用いられる差別税の前提をおいている。また、地方交付税は基本的に基準財政需要額と基準財政収入額との差額を財源不足額と認識してできるだけその不足額を補填しようとするものであるが、基準財政収入額は地方税が基準税率(市町村の場合には標準税率×0.75)を乗じて算定される。この基準財政収入額の算定方法はそれほど複雑ではなく合理的であるので、今回のシミュレーション分析においては現行制度を踏襲し、基準財政需要額の算定における簡素化を模索した。今回の研究成果はすでにソシオ サイエンスVol.6 2000に"The Effects of Fiscal Equalization Grant System in Japan and the Possible Simplification of Allocation Formulas"という英語の論文で発表したから詳しくはそちらを参照してほしい。
 また、国際的舞台にでていくとわが国の発信量はあまりに少なく、きわめて優れている地方制度等について世界の学会もほとんど知らない。本年度はスペインのセビリアで開催される国際財政学会(IIPF)において主としてわが国の財政調整制度について報告することになっており、すでに学会準備委員からの発表許可はもらってある。